第六章
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あらためてだ、彼に言ったのだった。最上階の中は次第にだが明るくなってきていた。日はまだ姿を見せていないが。
「ここはな」
「科挙の及第をですね」
「願うのじゃ」
「わかりました」
「さて、行くがいい」
すっとだ、窓の方から身体を左にやってだった。老人は劉に言った。窓からの景色が完全に見える様になった。
「窓のところにな」
「そしてですね」
「うむ、黄鶴を見るのじゃ」
「今から」
「そうせよ」
こう言ってだ、老人は劉に黄鶴を見る様に言った、そして。
劉は窓のところに来た、そうして日が昇るのを見た。するとその日の方からだ。
黄色の、黄金色にも見える羽根を持つ鶴が出て来た。翼の端は黒だが鶴の白い部分は全て黄色く輝いている。
その黄鶴は黄鶴楼に向かって飛んできている、その美しい鶴をその目に観ながら。
劉は願った、そして。
黄鶴が何処かへと飛び去ってからだ、老人に顔を向けて言った。
「確かに」
「願ったか」
「はい」
「それは何よりじゃ、ではわしはな」
「次の機会にですか」
「また寿命を伸ばすことを願う」
こう言うのだった、劉に。
「またな」
「そうされますか」
「またな」
「私に譲って」
「ははは、だから次の機会がある」
「それは何時ですか?」
「毎日昇っていればその時が来るわ」
何時でもという言葉だった。
「だからな」
「それで、ですか」
「何というものはない」
「そうなのですね」
「うむ、ではな」
「ご老人は明日もですか」
「ここに登る」
黄鶴楼の最上階までというのだ。
「そうする、ではな」
「それでは機会があれば」
「また会おうぞ」
笑ってこう話してだ、そのうえで。
劉は老人と別れて黄鶴楼を降りた、そして。
入口で待っていた辛にだ、こう言ったのだった。
「変わった老人がいてね」
「黄鶴に願いごとをしろとですね」
「知ってたんだ」
「はい、内緒にしてましたが」
辛は笑って劉に話した。
「子供の頃祖父様に聞いていまして」
「それでだったんだ」
「黄鶴楼のもう一つの名前の由来を」
「そうだったんだね」
「願われましたね」
「うん、確かにね」
その通りとだ、劉は辛に答えた。
「そうしたよ」
「おめでとうございます」
「だから私にこの黄鶴楼に登る様に言ったんだ」
「左様でした」
「有り難う、じゃあそうなる様に学問に励むよ」
「是非共」
「しかし」
劉は家に向かって歩きはじめた、辛はその後についてくる。彼は辛にあらためて尋ねた。
「何故辛さんの祖父殿はこの話を知っていたんだい?」
「そのことですか」
「あのご老人は孫権公にお話した話と言っていたけれど」
「はい、実はこの黄鶴楼のはじまりはです」
「黄
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