第二章
[8]前話
昨日と同じ席で同じスコーピオンを一杯飲んだ、そしてマスターに言った。
「この通りよ」
「全てですね」
「飲ませてもらったわ」
「今日からはですね」
「一人でもね」
「お別れを終えられたので」
「私の中でね、二人で一杯飲むにしても」
それでもとだ、彼に言った。
「お別れを終えたから」
「今はですね」
「一杯全て飲まれますね」
「これからもね」
「左様ですか、では」
「また二人で一杯飲める様になるわ」
マスターに微笑んで言った。
「その時は宜しくね」
「はい、お待ちしていますよ」
「そういうことでね」
私はこう言ってだった。そのうえで。
この日は飲み干されたグラスを見た、何もなくなったグラスからはカクテルの残り香が漂っていた、それは決して寂しいものではなかった。
そしてだ、やがて。
私はバーでだ、マスターにこう言える様になった。
「また二人でね」
「左様ですか」
「新しくはじめたわ」
何をはじめたかはもう言う必要がなかった。
「今は楽しく過ごしてるわ」
「それは何よりです」
「ええ、もう半分飲むことはね」
「それはですね」
「ない様にするわ」
前みたいなことはだ。
「絶対にね」
「何時までもですね」
「全て飲める様にするわ」
一杯のものをだ。
「半分だけでなくね」
「やはりこうしたものは」
「全て飲むものよ」
それはわかっている、私も。
けれどだ、あの時だけは。
「餞別には別よ」
「その時だけは、ですね」
「ええ、悲しい意味での特別な時はね」
私はあえて微笑んで言った。
「半分だけにしてね」
「相手の方にもう半分、ですね」
「別れた相手にね」
そうするものだと言ってだった、私は一杯のカクテルをそのまま楽しんだ余韻をさらに楽しんだ。コーヒーもカクテルも特別な時以外はやっぱり一杯をそのまま飲むに限ると思いながら。
モナムール 完
2015・11・23
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