暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 24
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ッテ自身が食べる機会は滅多にないが。
 ジャム作りの手伝いは、果樹園で仕事を貰った三年前から続けている。
 試しに腕を鼻へ近付けてみれば、勘違いかとも思える程度にうーっすらと甘い匂いがした。

(なんてこと……! いつの間にか馴染んでたから、自分じゃそんなに強く感じないんだわ)

 自分自身の体臭など、度を超した酷さでもなければ感じにくいものだ。
 身だしなみに(こだわ)る女性なら、決して見逃さないであろう点を。
 ミートリッテは完全に失念していた。

「海沿いにある居住地、鮮魚に並ぶ一押しの完熟オレンジとマーマレード。ネアウィック村を知っていれば、結び付けるのは簡単です。特にここ最近、果樹園の売り上げが少し伸びているのではありませんか? それと同時に、農園主の出張も増えていたり」
「え? なん……  まさか!?」
「はい。表向きは商談、本音は農園主の素行及び業務の実態調査、といったところでしょう。調査隊を直接派遣してこないのは、似た環境にある複数の生産地を疑っているから。いつ、どこに現れるか分からない怪盗への備えもありますし、警備を手薄にするよりも、取引(エサ)をぶら下げて農園主(容疑者)達を手元に集めたほうが効率が良いと判断したのだと思います。そしてそれを、屋敷や逃走経路などの残り香に気付いた貴族達が、順番でくり返している」

 嬉しそうなピッシュの笑顔が浮かんだ。
 オレンジが大好きで、オレンジを育てることに誇りを持っている雇い主。
 より多くの人に、オレンジやマーマレードを好きになってもらえたらと、身を粉にして働く恩人の一人。

 彼の笑顔を、誇りを、生き甲斐を。
 シャムロックが奪いかけている。
 シャムロックのせいで、ピッシュがあらぬ疑いを掛けられ。
 果樹園と同時に、ネアウィック村の存続すら危うくしている。
 気付いた瞬間に頭の奥が真っ黒く染まり、体がブルッと震えた。

「シャムロック。貴女は深夜密かに貴族の屋敷から奪った品を、翌朝までに各領境付近で、祖国に帰る直前だったバーデル王国の商人達へ適当な理由を付けて売っていましたね。その代金はすべて各種産業が使う道具に変えて、地元の一次生産所にこっそり配り歩いた。道具の販売店や、卸売り業者や、製造者には売上金を。他の生産者達には新しい道具を無償提供することで、作業効率の向上と経営資金などの負担軽減を図っていた……でしょう?」

 正体だけではなく、具体的に何をしたのかまで見破られているのか。
 最早言い逃れする気力も失せ、ぎこちない動きで頷く。

「イオーネさん達は、シャムロックが暗躍を始めて一年と半年経った頃からバーデル側国境沿いの村や街へ活動拠点を移し、帰国あるいは一時入国したばかりの商人を狙って殺害、盗品を奪い取っていたそうです
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