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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十二話 バラ園
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アンネローゼを後宮より下げるのは惜しいが、そうすれば少しはローエングラム伯も落ち着くやもしれぬ。
「それは御無用に願います」

ほう、きっぱりと答えたの。
「いかぬか」
「はい。ローエングラム伯は返って侮辱と感じるかもしれません」

「そうか、そうかもしれんの。周りの貴族達も囃し立てるやもしれん」
アンネローゼが後宮より下がれば、寵を失ったと判断した貴族たちが囃し立てるか……。

ローエングラム伯はその侮辱に耐えられず、その侮辱を与えた予を許すまい……。返すも地獄、返さぬも地獄か。つまり、予が死んで自然とあれが後宮より下がる、それしかないということか。

「それに、陛下の元に新たに女性を献ずる貴族が押し寄せますが」
こやつめ、楽しんでおるな、なるほど確かにそうじゃの。この年で若い娘の相手はちとしんどい、そうじゃ、そちに手伝わせるという手もあるの。

「なるほど、確かにそうじゃの。そちにも一人遣わそうか。好みの娘を選んでよいぞ。ただし、そちの嫌いな貴族の娘じゃが」
背後からおかしそうな笑い声が聞こえて来た。

「陛下、それでは親が納得いたしますまい」
「そうでもあるまい。貴族の誇りとやらが邪魔しているが、内心ではそちと誼を結びたいと思っているものもおろう。予が遣わしたとなれば面目も立つ」

「愚かな話ですね」
「そうじゃの、全く愚かな話じゃ」
思わず笑い声が出た。ヴァレンシュタインも笑っているようだの。

バラの華を見ながら貴族たちの愚かさを笑うか。笑うのは皇帝と平民、なんとも皮肉なものよ。ルドルフ大帝はこのような日が来ると想像した事があったかの。

目の前には美しい華が咲き誇っておる。後ろにいるヴァレンシュタインは華を見ておるじゃろうか。バラの華が似合う若者じゃ、黒のマントも映えるであろう。しかしどう見てもバラの華を愛でる姿が思いつかぬ。困ったものじゃ……。

「あれは、簒奪を望んでいよう」
「ケスラー提督がそのような事を申し上げましたか?」
「いや、そのような事は言わなんだ。だがあれの目を見れば分かる……。そちはどう思うか、思うところを述べてみよ」

少しの間、沈黙があった。なるほど、簒奪の意思有りということか……。
「おそらくはそれを望んでいましょう」
「そうか」

正直な男よの。他のものなら有り得ぬと否定するか、有り得るとむきになって伯を誹謗するかじゃ。そちはそのいずれでもない。ただ思うところを述べる……、それだけじゃの。

「あれにとってはそちが邪魔なのであろう。そちがいる限り、権力は握れぬからの」
「……」

「逃げたいか? そちは権力など望んでおるまい。ここから逃げ出したいとは思わぬか?」
「……思います」

「では、何故逃げぬ?」
「自分を信頼してつ
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