第一部 PHANTOM BLAZE
エピローグ 〜BEYOND THE WORLD〜
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「だからって」
「それにッ!」
緒方の言葉を田中の声が打ち消す。
「今を逃したらもう二度とチャンスは巡って来ない! 兄貴はッ!
“もう二度と逢えない何処か遠く” に行ってしまいそうな気がするッッ!!」
「――ッ!」
特に深い思慮が在ったとは想えない田中の言葉に、
吉田 一美がか細い悲鳴のような声をあげた。
池は、敏感にソレを察知した。
「……」
一体、どういう事なのだろう?
彼女は、空条 承太郎とはクラスも違い言葉を交わした事も、
更にいうならば一時的な接触を取った事すらない筈だ。
それなのに何故? 空条 承太郎が
「いなくなる(しかもこれは田中の妄想に過ぎない)」
という事に、こうも過敏に反応するのか?
まるで、自分の知らない所で彼と深い関わりが在ったかのようだ。
しかし、そんな事は天地がひっくり返っても有り得ない。
何故なら、彼女は会話の中に、
空条 承太郎という “名前すら出した事がないのだから”
その少女の様子に対し、池 速人の心の裡に、
普段冷静な彼でもコントロール出来ない寂しさと怒りが織り混ざったかのような、
形容しがたい感情が拡がっていった。
その自分の脇では、こちらの心情など意に介さないと言った様子で
田中と緒方が言い争っている。
「だから今しかないんだ! 解ったら黙って行かせてくれッ!」
「だからダメだって!
機嫌が悪かったら怒鳴られるだけじゃなくて殴られるかもしれないよ!
三年の先輩が10人まとめて病院送りにされた事忘れたの!?」
「 “覚悟” の上だ! 「兄弟分」 にして貰うまでは例え100発殴られても!
否ッ! 1000発殴られても食い下がる “覚悟” だ!
それが俺の 『男』 を示す事になるッ!」
「アノ人から100発も1000発も殴られたら死んじゃうってッ!」
緒方は田中が一発殴られるのも耐えられないと言った面もちで、
前に行こうとする少年の腕を掴んで懸命に押し止める。
その一方佐藤の方は 「俺は殴られる心配ないから気楽だなぁ」 と言った表情で
口元に笑みまで浮かべていた。
「……ぅ……ク……ン……?」
「!」
唐突に池の脇で、再び吉田 一美が消え去りそうな声を出した。
耳をすましても聞こえない位小さな声だったが、“池には” 確かに聞こえた。
彼女の、 “空条 承太郎” の名を呼ぶ声が。
その少女の様子は、残酷な程に悲痛で、儚くて、
在りもしない追憶を必死で想い出そうとしているかのような、
或いは、決して完成しないジグソーパズルをソレでも必死で組み上げようと
しているようにも見えた。
「……ッ!」
その事に対し、突如抑えようのない怒りが池の胸中で燃え盛った。
善悪の観念はどこぞに消し飛び、彼女に
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