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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十九話 毒
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を廃止こそ出来ませんでしたが有名無実化しました。だから私もオーベルシュタイン准将も生きている。しかし、彼と私では決定的に違う所があると思っています」

元帥と彼の違う所……。それは一体……。
「私は平民に生まれました。だから血統など何の意味も無かった。私が虚弱である事は私を否定する事にはならなかった。むしろ父も母も私を溺愛しました。私は十分すぎるほど幸せで、そのことを実感できたんです」

「……」
「しかし、オーベルシュタイン准将は違ったでしょう。彼は貴族に生まれた。周りには自分の血に誇りを持つ人間が多かったはずです。そんな中で彼のような人間はどのように扱われたか……。忌諱すべき存在として扱われたでしょうね」

ヴァレンシュタイン元帥は辛そうな表情で首を振った。元帥はオーベルシュタインに同情しているのだろうか、それとも彼を取り巻く環境の、貴族というものの愚かしさに嫌悪しているのだろうか……。

「彼は自分を認めさせようと努力したでしょう。彼は優秀な人です。周囲と比べて少しもひけを取らなかったでしょう。しかし、周囲は彼を評価しなかった、評価する前に忌諱した」
「……」

オーベルシュタインが他者との間に交流を必要としなくなったのはそれがあったせいか。周りが彼を拒んだ、だから彼も周りを拒んだ。そしていつしか他者を必要としない人間になった……。

「彼は考えたでしょうね。何故自分が認められないのか、受け入れられないのかと。そして気付いたはずです。劣悪遺伝子排除法、有名無実とは言え、あれはルドルフ大帝が定めた法です。貴族たちにとってあの法は精神的に絶対的な重みを持つ……」
「……」

「ゴールデンバウム王朝が続く限り、あの法は存続する。オーベルシュタイン准将はそう思ったでしょう。彼は劣悪遺伝子排除法を憎み、それを生み出したルドルフ大帝を呪い、大帝の創った銀河帝国とその子孫を滅ぼすと誓った……」

「……」
「そして、その帝国を生んだ民主共和制を侮蔑した。帝国の前身である銀河連邦も、帝国を滅ぼせずにいる自由惑星同盟も憎悪の対象でしかない。彼にとってこの宇宙の現状は赦せるものではないんです」

沈黙が落ちた。元帥は眼を伏せ気味に黙っている。私も口を開く事が出来ない。応接室には私と元帥の二人しか居ない。しかし、この空気の重さは一体なんだろう。帝国五百年の澱みだろうか。あるいはオーベルシュタインの呪いの重さだろうか……。

「彼は考えたでしょう。私では帝国は再生してしまうと、滅ぼすことは出来ないと。だからローエングラム伯を選んだ。伯なら彼の望みをかなえる事が出来ると判断した……。私が呼んでも彼は来なかったはずです」
「……」

つまり、ローエングラム伯もゴールデンバウム王朝の滅亡、いや彼の場合は簒奪を考えているという事
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