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渡り鳥が忘れた、古巣
渡り鳥が忘れた、古巣【A】
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品に押され、業績不振に陥った。古民家の敷地内の銀杏が、黄金色に色づいた季節に、直子は、男子を出産した。母子共に健康であった。赤子は、泰弘と直子の一文字ずつを取って、直弘と名付けた。
年末に至り、栄吉の縫製工場は、益々、受注が減り、多額の負債を抱え、ついに倒産してしまった。縫製工場は、借金の担保に取られ、栄吉の財産は、古民家だけに成った。職を失ったヨネは、泰弘の学費を、工面出来なく成った。泰弘は、大学中退を、余儀なくされた。追って、商事会社より、内定の取消の通知が、届いた。栄吉は、従業員を解雇や、泰弘の内定の取消に、自己責任を痛感し、縫製工場の引き渡し直前に、工場内で首をつった。床に[ごめんな]と、書いた遺書が有った。葬儀は、家族だけで、密やかに執り行った。しかし、泰弘と直子の結婚式は、出来なくなった。ヨネ・泰弘・直子の三人は、栄吉に、多大な恩義を感じていた。母猫のホワイトは、古民家の門の前で、(あるじ)の栄吉を、したすら、待ち続けた。皆が家に連れ込もうとしても、拒み、餌も口にしなかった。ホワイトは、一週間程して、門の横で息絶えていた。衰弱死だった。倹約家でしっかり者の直子は、栄吉夫婦が直子に預けた安藤家の生活費や、仕送り以外の自分の小遣いの大半を、備蓄していたので、残された安藤家全員が、その備蓄で食い繋ぐ事が出来た。
葬儀も終わり、一段落した頃、泰弘は、ゼミの教授と面談した。成績優秀な泰弘を教授は、自分の教え子が起業した、貿易会社に、就職を世話してくれた。会社はJATC(Japan ASEAN Trading Company)と云う、社長夫婦とパート従業員二人の零細企業で、夫婦の名前は相川一夫・佳子(あいかわ かずお・よしこ)だった。貿易会社に就職した泰弘は、これから自分が、安藤家の大黒柱だと感じ、家族の為に、長時間働き頑張った。50歳を超えていたキクとヨネには、思った職が無く、要約、公園清掃の仕事に在り付いた。泰弘とキクとヨネを、公園清掃の職場に出し、赤子の直弘の育児と野良仕事と家事が、直子の日課になった。泰弘は、貿易会社に入社してから一年過ぎた頃、フィリピン転
勤への辞令を貰った。マニラのJATCの支社に赴任してからは、泰弘の業績は凄まじく、会社は東証二部に上場し、彼は専務兼、東南アジア統括責任者に就任した。反面、我が家に帰国出来るのは、年一回の一週間程
になった。直弘が幼い頃には、帰国した度に、親子三人は、風呂に入り、キャッチボールやプラモデル作りに興じた。しかし、息子・直弘が年長に成るのに連れて、偶にしか帰って来ない泰弘と、直弘の親子関係は、希薄に成っていった。でも、直子との夫婦の絆は固く、泰弘からの週一回の国際電話が、直子には、唯一の楽しみだった。
軒下には、ツバメの雛鳥が口を開けて、親
鳥が運ぶ餌を待っていた。
直子の畑には、何時
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