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渡り鳥が忘れた、古巣
渡り鳥が忘れた、古巣【A】
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かせる」と、言っていた。泰弘は、ヨネに、金銭的な余裕が無い事を、分かっていたので、進学は既に諦めていた。次第に彼の心は荒み(すさみ)、盛り場を(たむろ)する様になり、帰宅時も夜10時を回る事が多くなった。ヨネが自宅で、泰弘の机を開けると、そこには、煙草が入っていた。それは、泰弘の反抗期と、重なっていた。見かねたオーナーの栄吉が、泰弘の家庭教師を買って出た。彼の教育方針は、飴と鞭だった。それを期に栄吉夫婦は、ヨネと泰弘を、縫製工場に同居させた。斯して(かくして)、栄吉の、進学特訓が始まった。栄吉の職場は以前、進駐軍だった。彼の趣味の、ポップスやクラシックは、進駐軍の影響を受けた物で、彼のレコードは、米軍の処分品だった。妻のキクは、進駐軍の米兵専用のレストランで、カウンター係を勤めていて、二人の出会いは、進駐軍だったので、二人とも英語は得意だった。縫製工場の納品先は100%が米軍で、栄吉の進駐軍の人脈により、今も継続していた。栄吉の教育方針が功を制し、泰弘の学力は校内でトップクラス、特に英語は、c純唐ノなった。泰弘は見事、市内で一番の進学校に、入学した。栄吉夫婦は、泰弘の高校進学を殊の外、喜び、自宅の居間で祝宴を設けた。宴も(たけなわ)に成り、酔いが回った頃、栄吉夫婦はレコードに合せ、二人でダンスを始めた。それは泰弘が、始めて見る光景だった。ダンスは二人が、進駐軍で覚えた。二人は、ヨネと泰弘に、ダンスの手解きをした。泰弘は、母のヨネと踊った。初めての経験だった。楽しかった。
泰弘の高校の成績は抜群で、順調に国立大学の一期校に入学した。その頃、栄吉の縫製工場に、中村直子と云う、中学を卒業したばかりの女の子が、入社した。キクの遠縁の子供で、身なりは貧祖で、頭髪はオサゲ結った、スッピンの田舎者だった。泰弘は彼女に、素朴な美しさを感じた。聞いて見ると、七人兄妹の五番目で、実家は農家だそうだ。それが泰弘と直子の、最初の出会いだった。直子の入社で、縫製工場の住居部分が手狭となり、栄吉は、市内近郊の調整区域に在る、茅葺(かやぶき)の古民家を、購入した。古民家は元々、農家だったので、家の周りは畑で、土地は三反(900坪)有った。価格は、調整区域内の築70年以上経過した古民家なので、大きさに比べ、破格の価格で購入出来たが、修復には、多少費用が掛かった。栄吉夫婦とヨネと泰弘と直子の五人は、古民家に移り住み、縫製工場までは毎日、通う日々になった。栄吉の念願の、住居専用の、家族住宅が誕生した。田舎者の直子は、畑が気に入り、農作業は殆ど彼女が専任し、彼女の仕事は、家事と農作業の家政婦になった。日が経つに連れて、直子の田舎臭さは、薄れて行ったが、彼女の素朴さと明るさは、健在だった。そんな彼女に、泰弘は、心を惹かれていった。貧乏の農家で育った直子は、倹約家で、殆ど衣類は欲しがらず、化粧
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