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八神家の養父切嗣
六十三話:“正義の味方”
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消え切嗣の心象風景に呑まれていく。心臓を撃たれ瞬間的に塞がれた結果、体内の血液、魔力その他のものが障害を起こしレアスキルを扱う能力が一時的に断たれたのだ。それがただの銃弾であればすぐに元に戻せただろう。

 しかし、永遠に癒えぬ古傷となる起源弾の前では一瞬の傷も永遠となる。そして加速・減速はできても巻き戻しは固有結界内でなければできない。つまり一度固有結界が解かれれば傷を治す術はないのだ。


「もしも、お前が起源弾を生み出せるほど―――天才でなければお前の勝ちだったろうな」


 要因は他にもオリジナルよりも能力的に劣っていたなど複数ある。しかし、最も大きな理由は起源弾という殺人兵器が凶悪なまでに、完成されていたからである。つまり、スカリエッティは自身の優秀さ故に完全なる存在になることができなかったのだ。

「く、くくく…ははは、あーはっはっは! なるほどこれは傑作だ! 確かにこれは自分自身との闘いだった。そして私は―――私に負けた!」

 自身を賭けた戦いにおいて自身の発明した武器により止めを刺された。これを敗北と言わずになんと言うのか。それに何より相手は自身の能力を見事に超えてみせた。何も悔いに残すことなどない。この戦いの勝者は―――



「―――君の勝ちだ、衛宮切嗣」

「そして―――お前の敗北だ、ジェイル・スカリエッティ」



 ―――衛宮切嗣だ。
 敗北を認めると共にスカリエッティの体が崩れ去っていく。時の流れを無視し、何度も巻き戻した代償が訪れたのだ。しかし、自身の消滅を前にしても彼は嗤っていた。どこか満足気にで、それでいてつまらなさそうに。

「くくく……何とも下らん結末だ。生み出されてより続いていた乾きがようやく癒されるかと思っていたが……まるで足りん。未だにこの身は満たされない! だが―――」

 神となり、完全な存在となれば空っぽの心が埋められるとそう信じていた。しかし、ついぞその領域に辿り着くことはできなかった。不満だ、生まれて初めて己の望んだものを手にすることなく消えていく。敗者となったのだ。不満が残らぬはずがない。しかしながら。


「―――悪くない」


 悪い気分はしなかった。このまま消えるだけの身だというのに実に清々しい気分だった。もはや何も願いはない。崩壊していく体を引きずるように聖杯の前へと進んでいく。それにはやて達は反応するが切嗣は黙って見送るだけである。

「ああ……そう言えば私は敵の登場を願った(・・・・・・・)のだったな。まさか、そのような些細な願いを叶えてくれるとは思っていなかったよ」

 固有結界を展開する前にはやて達に語った言葉を聖杯は聞き届けていた。スカリエッティを楽しませる敵の登場を。悪の敵―――正義の味方の登場を。


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