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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十五話 苦悶
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あの男……。聞くまでも無いだろう、ヴァレンシュタイン元帥のことだ。でも、一体何が有ったのだろう。シャンタウ星域の会戦ではラインハルトの功績は大きかったと聞いているけど……。

「追付きたい、追い越したい、いつか彼を越えてみせる。そう思い、そう誓う度に彼は私に見せ付けるんです。お前などまだまだだと、取るに足らない存在だと……」

搾り出すような声だった。ラインハルトは苦しんでいる。彼がこんな姿を見せることがあるとは想像もしなかった。野心的で覇気に溢れる蒼氷色の瞳、私が好きだった美しい瞳、その瞳に今は力が無い。

キルヒアイスも隣で黙って聞いている。目を伏せ、唇を噛み締め俯きながら聞いている。普通ならラインハルトを擁護する彼が沈黙している。

「シャンタウ星域の会戦では貴方の功績が大きかったと聞いているわ。本隊を率いて戦ったのは貴方でしょう。一体何が有ったの?」
答えてくれるだろうか……。

「あんな戦い……、あれは勝って当然の戦いだったんです。勝つ準備は全てヴァレンシュタインが整えていました。私が居なくても、あの戦いは勝ったでしょう」
「それが理由なの……」

「違います、いえ、それも有りますが……」
「?」
ラインハルトが少し口ごもった。ためらいがちにジークを見た後言葉を出した。

「彼は新しい帝国を創るつもりです。門閥貴族を滅ぼし、国内を改革し宇宙を統一する……」
「……」

「彼の創る帝国では私は有能な副司令長官でしかない。私は、頂点に立ちたいんです……」

私はヴァレンシュタイン元帥の事を考えた。十年前、彼の両親の葬儀で見たときは、まだ小さくてこれからどうするのかと思った。でもこの十年で帝国を動かす実力者に育っている。

彼を育てたのは貴族への憎悪だろう。穏やかにココアを飲んでいた青年。どちらかと言えば軍人というより文官、いや学生のような雰囲気を身につけていた。外見だけなら誰も彼を恐れはしない。

でも彼は平民から初めて宇宙艦隊司令長官になり、元帥になった。多くの貴族達にとって許せる存在ではないだろう。元帥杖授与式における貴族たちの表情は憎悪に満ちていたといって良い。

そんな中、貴族になることを拒否し、平民出身の軍人たちに自分に続けと黒真珠の間で宣言した。あれは貴族への宣戦布告だろう。彼の内面には何者にも負けないという強い決意があるはずだ。そしてラインハルトはそんなヴァレンシュタインに圧倒されている。

アンネローゼを見た。辛そうな表情でラインハルトを見ている。先程ヴァレンシュタイン元帥にラインハルトのことを頼んでいたのはこれを予想していたからだろうか。もしかすると皇帝から何か言われたのだろうか……。

ヴァレンシュタインはラインハルトだけの問題ではない。私も貴族だ、彼の憎む貴族……。
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