第十八話 新幹線の中でその四
[8]前話 [2]次話
「この人生じゃどうか」
「終わりですね」
「今の人生でやるべきことをやってならともかく」
「途中で死んだらですか」
「よくないからね」
「まずは生きることですか」
「どういうことになってもね」
こう優花に話すのだった。
「人はね」
「それからなんですね」
「そう、死んだら駄目だよ」
絶対にという口調での言葉だった。
「病気でもそうだし自殺なんて」
「特に、ですか」
「絶対にしちゃいけないことなんだ」
男はその目に過去、それも悲しいものを帯させて話した。
「何があっても」
「どんなに辛い状況でもですか」
「大変でもね」
「まずは生きることですか」
「そうなんだよ」
優花に強く言う。
「まずは生きないと駄目なんだ」
「生きていたらですね」
「どうにか出来るからね、それにね」
「それに?」
「雨の後はどうなるかな」
男は優花にこうも尋ねた。
「その後は」
「ええと、晴れます」
優花は天気のことを頭の中で考えてから男に答えた。
「そうなります」
「そうだね、雨の後は晴れるんだよ」
「つまりどん底でもですか」
「ずっとどん底でもないんだよ」
「好転するんですね」
「そう出来るしね」
自分自身の力でというのだ。
「人間何が起こるかわからないけれど」
「それはいいこともですね」
「人が助けてくれたり状況が変わったりするんだ」
「それで事態が変わるから」
「生きるべきなんだよ」
まずは、というのだ。
「どれだけ酷い状況の中でもね」
「そうなんですね」
「そう、だからどんな状況でもね」
「生きることですね」
「君もわしもだよ」
「おじさんもですか」
「そうだよ、全く」
ここでだ、男は。
優花にだ、こうしたことも言ったのだった。
「若くてもな」
「若くてもですか」
「自殺なんかしたら」
その顔を苦々しいものにさせての言葉だった。
「元も子もないさ」
「おじさんひょっとして」
「友達がいたけれど」
それでもというのだ。
「死んだんだよ」
「自殺されたんですね」
「子供の頃からの友達だったけれど」
その友達がというのだ。
「死んだんだ、自殺してね」
「そうだったんですね」
「いい奴だったけれど。下らない理由で」
「ですか」
「全く、今も生きていたら」
目に悲しみさえ帯させてだ、男は優花に話した。
「奥さんを迎えて子供も出来て」
「幸せにですね」
「なっていた筈なのに」
それが、というのだ。
「残念だよ」
「そうしたことがあったんですね」
「本当にね、だから」
「自殺は、ですか」
「一番そうなったらいけない死に方で」
男は優花にさらに話した。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ