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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
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々に涙の粒が落ちていく。
 どれだけ時間が経ったのだろうか、涙の雨が止む頃、ユキはゆっくりと顔を上げた。

「はい」

 士郎に向け、ハッキリと返事を返したユキの顔には、空に昇る月が恥じ入り雲に隠れるほどに……



 とても美しい笑顔だった。









 
「士郎の国か」
「お前たちの父親の国でもあるんだぞ」
「そうなんだけどねぇ。まっ、姉ちゃんがどうしてもって言うからしょうがないか」

 夕焼けを背中に受けながら、士郎とマモルは帰路についていた。二人で畑仕事を終え、並んで帰るのもこれが最後になる。明日になれば、マモルとユキは日本に飛び立つ。
 既に準備は済ませた……ちょっと日本に帰るのが怖いが……。

 なんやかんや言っているが、マモルは満更でもない顔をしている。素直じゃないマモルの様子を横目で確認した士郎は、微かに星明かりが見え出した空を見上げた。

「悪くない国だぞ日本は」
「楽しみにしとくよ」

 にやにやとした顔で士郎を見上げると、マモルは歩く速度を上げた。目の前を、若干早足で歩くマモルから、微かに鼻歌が聞こえる。どう見ても楽しみにしているマモルに対し、士郎が何かを言おうと口を開くと、目の前を歩くマモルが急に立ち止まった。
 
「どうしたマモル?」
「何だアレ?」
「ん? あれは……まさか」

 マモルの視線の先には、黒い煙が立ち上っていた。夜空に変わる直前の空を、どす黒く汚していくそれは、後から後から途切れなく立ち上っていく。

「な、なあ。あの方向って」
「村のある方向だな」

 黒煙の昇る方角にあるものを思い、顔を顰めた士郎は、マモルの肩に手を置いた。立ち上る黒煙に、マモルも何かしらの不安を抱いたのか、微かに震える瞳で見つめてくる。不安気に揺れる目を抑えるように、マモルの肩をしっかりと掴む。

「マモル、ユキと一緒に俺が帰るまで家で待っていろ」
「お、おいシロウっ! あんたはどうするって……ちょっ、待てよ!」

 手を伸ばし、士郎を呼び止めようとするマモルに応えることなく、士郎は騒ぐ胸に急かさえるかのように、黒煙が上がる方角に向かって駆け出した。








 赤、朱、赫、紅……

「なっ……これは」

 赤く……視界の全てが燃えていた。

 村が……燃えていた。 
 
 轟々と家が、家畜が、畑が、車が……そして、人が燃えていた。
 悲鳴は聞こえない。ただ、燃え朽ちた建物が倒壊する音と、炎が燃え盛る音しか聞こえない。

「誰かっ! 誰かいないかっ!」

 肌を炙る炎を気にかけることなく、生存者がいないか士郎は声を張り上げながら村を駆け回る。しかし、目に見えるものは、黒焦げた死体だけ、生者の姿
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