暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
幕間 傷跡
[13/15]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

    選ばれ
 
    天秤が崩れるように消えていく
 
    天秤が消える一瞬
 
    天秤を持つ男の姿が見えた
 
    それは、光を宿さない瞳を持つ赤い男だった――――――――

 


 
 燃える炎に炙られ揺れる夜空に、黒い小さな丸い月が昇る。



 月は黒い月光を迸らせていた。細い線の様な月光がくるくると回る月に合わせ回っている。



 一瞬にして夜空に昇った黒い月は、同じように一瞬にして地に沈み始めるが……




 黒い月は彼方に沈むことなく……




 ……士郎の足元に落ちた。




 何時しか星空を塞ぎ始めた雲から、ポツリポツリと雨粒が落ち始めた。次第に強くなる雨足は、天を突くばかりに燃え上がっていた炎を次第に弱めていく。叩きつける勢いで降り始めた雨により炎が静まると、辺りには様々なモノが焼け焦げた臭いが漂い出す。



 ――――――シロウ……私の名前のユキってどう言う意味?――――――

 ――――――冬という季節に空から降る……氷の結晶のことだ―――――

 ――――――こおりのけっしょう?……こおり?……――――――

 ――――――そうだな……白い小さな綿菓子みたいなものだ――――――

 ――――――……わたがし? ……よく分からない……――――――

 ――――――ん〜……まあ、とても綺麗で、儚く、冷たい……小さな白い粒だ。それが空から降ってくるんだ――――――

 ――――――……そう……綺麗なの――――――

 ――――――ああとても綺麗だ……いつか、見れるさ――――――





 暗く黒い世界……

 動くモノはなく……

 ――――ぁぁぁぁ――――

 ただ焼け焦げた瓦礫のみが広がる……

 ――――アアアアアアア――――

 煙漂う焼け焦げた村には、ただ耳を叩く雨音だけが響き――――

 ――――アアアアアアアアアァァァァァァァ――――

 黒く塗りつぶされた世界に、男が一人立っていた。



 両手をダラリと垂らし、全身を雨で濡れそぼらせながら、男は闇が固まったかの様な空を仰ぎ見ている。雨音かと思われた、黒く染まった世界に響くそれは、男の叫び声であった。喉よ裂けろとばかりに響く男の叫びは――――

 嘆きの慟哭か

 憤激の怒号か

 哀惜の悲鳴か……

 ただ……死んだ世界に……響き……消えた……
 








  
 地獄を歩む亡者。
 その男を見る者がいれば、その言葉がまず浮かぶだろう。
 弱まった雨足は強くもなく、また、弱くもなく……ただ、不快なだけであった。視界を邪魔にしない
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ