第九話 厚遇の理由
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
れられると彼らは一転して震えあがった。れっきとした門閥の一員、カストロプ一門第四位のマリーンドルフ伯までもが処分されるとなると、それ以下の身分の貴族が安穏と遊び暮らしていられようはずがない。無能を自覚する者ほど、黒薔薇の刻印のある勅書を回避するため、地位を守るために励まざるを得なかった。幼年学校でも籍だけ置いて出席していなかった門閥貴族の生徒たちが着慣れない制服を着込み、緊張した顔をして入寮してくるのを俺も何度も目にした。
だが俺が馬鹿殿様の改易回避のお手伝いに駆り出されるとは晴天の霹靂だった。
「君も学業が忙しいところではあると思う。だがこれは名門の方々からのたってのご希望なのだ」
「勉学がお忙しい中申し訳ございません。ですが、若君様の健やかなご成長は主のたっての願いでして」
『あのなあ!』
シュテーガー校長に呼び出された応接室で貴族の家中、お館様のお披露目パーティーでクナップシュタイン男爵に延々つまらない話をしていた貴族──ツィンマーマン男爵の執事から世継ぎの若君のだらけぶりをなんとかしてくれと頭を下げられた俺は原作口調も礼儀作法も忘れて飛び上がって叫びそうになった。
かろうじて踏みとどまったのは野望のためである。ツィンマーマン男爵はファルストロング一門の第二十位…つまり、二十一家存在するファルストロング一門の中では末席同然の下っ端だ。とはいえ、俺から見ればまだ上位の存在である。
「いえ、かまいません。お続けください、執事殿」
何とか表情を取りつくろった俺に、校長と執事は喜色も露わに語り始めた。
『勘弁してくれよ…』
そして説明が始まった瞬間、俺の中でここ数週間の疑問が全て氷解し、気力は破れた風船から空気が抜けるように抜けていった。
「今一度、お力をお借りしたく…」
校長と執事曰く、マールバッハ伯爵家のお披露目パーティー以来、俺とブルーノはマールバッハ一門や友好関係にあるファルストロング一門の貴族の家から『家庭教師の助手』『ご学友』として所望されていたらしい。俺たちが迷子の我がままっ子を大人しくさせるのに使った魔法の呪文『皇帝陛下』の効果はお披露目パーティーからしばらくの間絶大だったようで、偏食だったり物を壊したり家臣に暴力をふるったりが日常茶飯事の問題児を抱える爵位持ちの貴族の家中は一息つけたらしい。
ニンジン食べたくないとか、ピーマンは嫌いだレベルの我がままに対処するのに皇帝陛下を持ち出すのは不敬罪じゃないかと思うんだが、叛徒の智将・勇将世に言う『七三〇年マフィア』の跳梁でそんな我がままっ子を容赦なく叩き伏せて躾けられる権威を持った腕力、厳格な父親でもある将官・佐官級の貴族当主が大量死して腕力が不足している現状では皇帝陛下に魔法の呪文になっていただくより仕方ないのだろう。
『皇帝陛下は人参でも何
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ