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魔王に直々に滅ぼされた彼女はゾンビ化して世界を救うそうです
第9話『──ごめんな』
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オルグスの側面、天の輝きの顕現による視覚妨害。
 ファナトシオルグスよりも低位の魔力的要素を打ち消し、その行動を妨げる希望の陽光。その光に隠れるように、ジークもまたスィーラの後を追う。魔力を全身に回し、ただひたすらに走る。
 ただ、ひたすらに走り続ける。

 もう、きっと此処には二度と戻らない。

 今のジークに、もう一度彼らと出会って、殺意を抑え込むほどの理性は無かった。

 その背は小さく、愚かな敗走者のようだった。









       ◇ ◇ ◇









「────。」

 大きな雲が、ただ青かったソラを覆い隠していく。
 ぽつぽつと憂鬱な雨が降り始め、暗闇に包まれ始めた森林の乾きかけた大地を、再び湿らせていく。
 生暖かい風が吹き始めた。温風に揺られた草木が揺れ、心なしか湿ったような音を木霊させる。
 川を流れる少し濁った流水には、降り続ける雨によって幾重にも重なる波紋が浮かんでいた。

「…………。」

 藍色の外套が雨に濡れ、黒に近い色合いに染まっていく。少年の腕に巻かれた赤い布が水を吸い、雫を垂らしてその肌に張り付いている。
 深緑のドレスが風に揺れ、端に垂らす水滴が肌白い足を伝って、茶色のブーツにシミを残した。いつもは陽光を受けて美しく輝く白髪も、今は暗く力無い色しか出してはいなかった。


 今一度、少年と少女は向かい合う。


「……なぁ、スィーラ」

 ジークが口を開く。スィーラの唇がピクリと揺れ、微かに声を漏らした。
 けれども声は徐々に勢いを強くする雨の音に掻き消され、ジークの耳に届く事はない。
 その様子を見て、しかしジークは問いを続ける。

「──なんで、アイツらを助けようと思ったんだ……?」

 切実な疑問だ。スィーラには、彼らを助ける理由がない。
 仮にジークと同じ種族だったからとして、あそこまで焦る理由にはならない。人間というエゴの塊のような種族は、きっとこれまでも彼女を傷つけてきただろうに。
 ずっと、疑問だったのだ。

 少女が屈み、お決まりの石を拾い上げる。既に多少削れたその石は、スィーラが壁に文字を書いてジークやメイリアに意思を伝えようとする際に用いるモノだ。
 既に使わない文字群を形成する、元は石だった白い粉をはたき落とし、新たな文字を描いていく。その手は弱々しく、呼吸は荒れていた。

 カッ、カッと、小気味の良い音が続き、スィーラの意思を表すように文字を形成していく。その文字はいつもに比べると雑で、なんとか読める程度ではあったが、その内容はしっかりと把握できた。
 けれども、把握出来るのと、理解出来るのとでは、大違いである。

「……たった……それだけ……で……」

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