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魔王に直々に滅ぼされた彼女はゾンビ化して世界を救うそうです
第9話『──ごめんな』
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感触が腕を包む。白銀の少女が全力を持って降り下ろされようとした憤怒の手に縋り付き、泣きながら少年へと懇願する。ジークの袖をぎゅっと握り込んだ手から、スィーラの涙が布地に染み込んだ。
 悲しみに呑まれながらも。
 それだけは見過ごせないと。
 それだけはやめてくれと。

「……ぁ、ぇ、……!ぁ……ぇ………っ!」

 美しい白髪を乱し、その涙で潤んだ赤い瞳が、彼女の為に怒りを想った少年へと訴える。ぎゅっと、彼を止めようとして、そのか細い腕でジークを抱きしめていた、

 自分をこれほどまでに追い込んだ、名も知らぬ人間たちの為に。

「……っ!……なん……で……っ!」

 納得いかない。納得出来ない。承認できない。見過ごせない。
 けれど、その当人である彼女が、拒むのだ。

「…………なん……、で、だよ…………っ、クソ……っ!」

 助けてくれ。このドス黒い感情を何処にやればいい。この行き場のない怒りを何処に向ければいい。この抑えようのない憤怒をどうすればいい。
 脳が沸騰しそうだ。
 頭が痛い。
 目の奥が熱い。
 手が言うことを聞かない。
 膝が震えている。
 目眩が酷い。
 吐き気がする。

 知らぬ間に、ただ自分の頭を掻き毟っていた。

 剣を仕舞い、魔力を切る。同時に、『対魔傭兵(かれら)』もその矛を下げた。

 シャツに押し付けられたスィーラの頬から染み込んできた涙で、胸元が湿っている。眼下には、彼女の真っ白で、所々にジークの傷跡付近に付着していた血液が移ってしまった、しかしそれでも美しい髪。
 弱々しいぬくもりが、少女の体から伝わってくる。そのぬくもりを無くしたくなくて、そのぬくもりを失いたくなくて、その小さな体を抱き締めた。

 そして、彼女にのみ聞こえるように、伝える。

「──……今は逃げてくれ。……必ず、行くから」

 胸元で顔を上げた少女が不安そうにジークの顔を見上げ、その紅の視線がジークの瞳を射抜く。
 少女はジークの懇願とも言える言葉にこくりと頷き、ジークから一歩、二歩と離れると、そのまま大地にクレーターを作り、遥か彼方の森へ−−ジークがスィーラへと贈った『帰る場所』がある山の麓へと。

 今現在でその場所を知るのは、スィーラにジーク、メイリアのみ。

 逃げ出したスィーラを追おうと、『対魔傭兵(かれら)』が動き出す。騎士団の面々も弓を構え、宙に飛び上がった少女を狙った。けれども、させない。
 目を走らせる。騎士達に道を阻まれながらも、なんとかこちらに来ようとするメイリアと視線を合わせる。

 一瞬のアイコンタクト。

 メイリアはすぐに、その眼を閉じた。

「『ファナトシオルグス』−−現光(リライト)ぉッ!」

 光剣ファナトシ
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