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俺の四畳半が最近安らげない件
両手の華〜小さいおじさんシリーズ10
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襖の影を凝視する。その視線の先に、あの人が佇んでいた。


―――絶世の美女、貂蝉が。


「うぅわぁ、あれ、あの人貂蝉でしょ!?俺、見逃して悔しい思いしてたんだ!」
「美しいなぁ…おい」
貂蝉は恥じらうように絹の袖で顔を隠した。ほんのり染まった頬と薄幸そうな佇まいが、まるで露に濡れた散り初めの桜のような…。ああ、また会えるなんて思ってもみなかった…。
「またとない客人ではございませんか。ささ、大喬様、小喬様、貂蝉殿を囲んで宴の続きなど。貂蝉殿、お得意の琴を呉の貴人たるお二人に、一曲献上いたしては」
「おぉ、それは素晴らしい!!何という贅沢な両手に華、いやもうこれは一面の華畑じゃわい!!ほれ、ほれ、そこなる弓腰妃も南中の美女も近う、近う!!」
弓と短刀の嵐が豪勢の座っていた辺りに降り注ぐ。豪勢はうぉっ、とか呟きながら物凄い嬉しそうに弓や刀の雨をかいくぐる。…あぁ、こういう人達も美女ってだけでそういう対象に入ってるんだ。何という、業の深い。
しかし二喬はそっと身を寄せ合い、するりと席を立った。
「あら、いけない。琴で思い出したけれど、今日は琴の先生が来る日でしたわ」
「私も読みかけの書があった気がするわ」
そして挨拶もそこそこに、そそくさとその場を立ち去った。…たった1分そこらの出来事だった。二人の猛女は、ハトが豆鉄砲を食らったような顔で立ち尽くしている。そしてお互い顔を見合わせて苦笑した。
「……き、貴様どうやって貂蝉殿を呼んだ!?」
視線は貂蝉に釘づけのまま、豪勢が呻いた。…だよな?気になるよな?白頭巾は、羽扇で口元を隠して肩を震わせた。
「くくく…私に、貂蝉殿をどうこう出来る筈がないではないですか」
「そんなことは分かっている!ならどうして!!」
「―――私にとってはどうでもよいことですが、関羽殿は…呉を、それはそれは深く恨んでいるようでございますよ」
耐えきれなくなったのか、白頭巾は羽扇で顔を覆ってふふはははははと嫌な笑いを漏らした。
「今日の宴の事を話したら、快く遣わして頂けましたよ、貂蝉殿を!!」


―――えげつない、とはこういう事か。


「―――穏やかな協定の裏に隠された権謀術策、猫の目のように変わる戦況、仁も義もなく当然の如く為される裏切り、そして形ばかりの復縁、協定、密約…我々男が数年掛けて行う戦が、たかが一度の女子会に詰め込まれていると思って頂けると、分かりやすいでしょうかねぇ」
ひとしきり笑ってから、白頭巾が呟いた。
「妻が申しておりました。それは千の刀傷をも凌ぐ苦痛である、と」
俺の四畳半に沈黙が降りた。尚香と祝融は弓を畳み、刀を仕舞い、軽く挨拶を交わして襖の影に消えた。三国志を彩る美女達をことごとく鑑賞出来てほくほく顔の眼鏡はともかく、三ノ宮は完全に引いていた。…まぁ、
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