第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
六十一話 百鬼夜荒 肆
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虚空と相対するならば、まず彼に脅威の欠片さえ感じないだろう。
『獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす』と言う言葉があるが――――実際は無理だ。
“本気になる”と“全力を出す”……この二つは実の所比例しない。
単純な話、蟻一匹を殺そうとする時にどうすれば全力を出せるだろうか?
本気で殺しにかかった所で、踏み付けるだけで死ぬような相手に死力を尽くせる訳がないのだ。
それは理屈ではなく無意識下の行動の最適化なのだからどうしようもない。
勇義は虚空に対し本気で殺意を抱いているが全力を振り絞ってはいない――――否、全力を出せない様に誘導されていた。
それは僅かではあるが意識の隙間、つまりは油断となって勇義に付きまとっていたのだ。
そして一つが虚空の攻撃方法。
虚空の攻撃は全て剣戟だった――――それ故に勇義は無意識の内に虚空の刀に意識を割いていた。
『奴の攻撃は剣主体』――――その思い込みが虚空の徒手空拳による打撃に対しての勇義の反応をほんの僅かに遅らせる結果となる。
それぞれの罠は本当に極僅かな意識の落とし穴でしか無く、致命的な傷を造る様なものではない。
だが複数の糸が重なるほんの僅かな一瞬を虚空は見逃さず、逆に勇義にはそれぞれの隙が重なり合った致命的な一瞬となり意識に身体が付いてこなかった。
そして勇義にとって最悪な事は、打撃を打ち込まれたのが“喉”だった事。
妖怪も生物と同じように呼吸を必要とする。
人体は不意な事を受けると反射的に息を吸い込む動作をおこすのだ。
その動作をおこす最中に呼吸器である喉へ衝撃を受けると、取り込むべき空気が遮断され息詰まりをおこし身体が一瞬だが硬直する。
その硬直は一瞬ではあるが、この状況の勇義にとっては絶望的な時間になる。
一手の遅れは一歩の遅れ――――既に刀を振り抜く体勢に入っている虚空に対し、無防備状態の勇義。
空を奔り迫る刃を見ながらも勇義の身体は未だ硬直したままどうする事も出来ず――――
虚空が放った一閃は吸い込まれる様に勇義の首へと振り抜かれた。
「…………ふぅ……やれやれ…」
辛労を表しているかの様に深く息を吐きながら、虚空は自身の左手に視線を落とす。
視線を向けた先にあるその手は――――爪が割れ指先の皮膚は裂け流血を起こしていた。
右手に持つ刀に視線を移せば、その刃は欠け損壊している。丁度勇義の首を捉えた箇所が。
そして虚空は勇義が吹き飛んで行った方へと視線を向ける。
そこには勇義が確りと二本の足で大地の
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