第五章
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「ゲッペルスは邪魔だな」
「宣伝相ですか」
「あの方ですか」
「あの男が切れ者なのは認める」
このことはだ。ゲーリングも否定できなかった。
「伊達に博士号を持っている訳ではないな。しかしだ」
「閣下にとってはあの方はですか」
「邪魔ですか」
「私が総統になってもあの男がいれば好きにはできない」
だからだ。ゲッペルスは邪魔だというのだ。
「かといってもな。あの男は総統閣下の腹心だ」
「第一の懐刀ですね」
「総統閣下のブレーンです」
「総統閣下も全幅の信頼を置いておられる」
猜疑心、独裁者の特徴としてそれが強いヒトラーにそれが向けられること自体が脅威であった。だからこそ後継者に任じられているゲーリングにしてもだというのだ。
「容易に除けない」
「ではどうすればいいでしょうか」
「宣伝相に対しては」
「少なくとも今負けはしない」
今度は対抗意識を露わにさせての言葉だった。
「そしてそのうえでだ」
「閣下が総統になられたその時に」
「動かれますか」
「総統になるのは私だ」
それならばだというのだ。
「負けはしない。絶対にな」
「わかりました。では我々もです」
「微力ながら」
「頼むぞ。航空省の運命は一蓮托生だ」
そのだ。ゲーリングとだというのだ。
「そのことは忘れるな」
「忘れる筈もありません。それでは」
「何としても宣伝相に勝ちましょう」
腹心達も応えてだ。そのうえでだった。
ゲッペルスとゲーリング、宣伝省と航空省の対立は激化していった。ハイドリヒという危険極まる男がいなくなるとさらにだ。そしてそれと共にだ。
戦争も激化しドイツにとって次第に不利になっていった。だがそれでも両者の対立は続きだ。お互いに水面下で激しい闘争を繰り広げていた。
ゲッペルスは疲労の見られる顔で宣伝相の席にいた。この日も。
そして宣伝の為の映画の資料を読みながらだ。己の側近達に述べた。
「あの男の情報は聞いたか」
「はい、また空軍の失敗です」
「多くの戦力を失ったそうです」
「そうか。それはいいことだ」
ゲッペルスはその疲労の濃い顔で淡々と述べる。
「私にとってはな」
「はい、しかしそれによりです」
「東部戦線はさらに不利になりかねないとのことです」
「ソ連軍は航空戦力も増強させてきています」
戦局のことも話されていく。
「今の我が軍の戦力では対抗しきれないとか」
「数があまりにも多過ぎて」
「それは困ったことだ。しかしだ」
祖国のことは心配だ。だがそれでもだというのだ。
「あの男の失点という意味ではだ」
「いいことですか」
「そう仰るのですね」
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