第四章
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「その様な男に総統が務まるのか」
「答えはナイン、ですね」
「甚だ疑問だ。だからこそだ」
「航空相にはですね」
「負けるつもりはない」
その宣伝相の席からだ。ゲッペルスは手を組み合わせて言った。
「最後に笑っているのは私だ」
「では宣伝相としては」
「あの男にこれ以上の増長は許さない」
「わかりました。それでは」
こうしてだ。ハイドリヒがいなくなり余計にだ。ゲッペルスはゲーリングへの対抗意識を露わにさせた。そしてそれはゲーリングも同じだった。
彼も航空省の己の部屋でだ。腹心達に言っていた。
「妻にだけ愛情を注いでいてよかった」
「はい、まさか娼館自体がハイドリヒの工作機関だったとは」
「思いも寄りませんでした」
側近達もゲーリングの前に直立不動で立ったまま言う。ゲーリングの執務室は派手、というよりは悪趣味に飾られていた。ルネサンス期の頃のものが多い。
その妙にサイケデリックさもある部屋の中でだ。ゲーリングは話した。
「あの男は危険だった」
「危険な謀略家でしたね」
「目的の為には手段を選ばない」
「しかしそれでもです。まさか娼館までもが工作機関だったとは」
「盗聴器を仕掛けていたとは」
「あの男らしいがな」
ゲーリングは忌々しげにだ。ハイドリヒについてさらに言う。
「目的の為には手段を選ばない」
「はい、そしてのしあがっていく」
「まさに悪でした」
「あの男が死んでくれてほっとしている」
実際にだ。ゲーリングは安堵した顔になってこう漏らした。
「ヒムラーですらどうにもできなかったのだからな」
「そのヒムラー内相の暗殺説がありますが」
側近の一人がこうゲーリングに話してきた。
「そうした話もあることは」
「知っている」
既にだとだ。ゲーリングもその側近に答えた。
「怪我は快方に向かっていたそうだな」
「はい、しかしです」
「あの男は急死した」
「それ故にです。そうした噂が流れていますが」
「そうかも知れないな」
ゲーリングもだ。その可能性を否定しなかった。そのうえで言うのだった。
「あのままではヒムラーも危うかった」
「失脚していましたか」
「そうなっていましたか」
「ハイドリヒはヒムラーに忠誠なぞ誓ってはいなかった」
直属の上司であるがだ。そうだったのだ。
「ヒムラーはまだ人間だがな」
「ハイドリヒ大将は違った」
「だからこそですね」
「あの男は悪だった」
人ではなくそれだとだ。ゲーリングは忌々しげな顔で言い捨てた。
「人ではなかった」
「まさに金髪の悪魔でしたね」
「人間味なぞありませんでした」
「そうだ、なかった」
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