第三章
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「好色で冷酷な人物だ」
「極めて機械的に人を陥れますね」
「そして消すことも厭わない」
「何の躊躇もなく」
「無論弱みも狙い握る」
謀略の一環としてだ。ハイドリヒはそうしたこともするのだ。
「彼はまさに生粋の悪だ」
「冷酷な悪ですね」
「ゲーリングなぞあの男に比べれば可愛げがある」
「内相も何もできないとか」
「そうだ。ヒムラーも何時だ」
どうなるかというのだ。
「彼に足元をすくわれるかわかったものではない」
「恐ろしい人物もいるものですね」
「あの男だけは総統にしてはならない」
ゲッペルスもだ。彼にしては珍しくその顔に戦慄を浮かべて話す。
「そうなれば私も君もだ」
「何時どうなるかわかったものではありませんね」
「あの天才的な悪辣漢にはな。誰も逆らえなくなる」
その時のことをだ。ゲッペルスは心から憂慮していた。彼はゲーリングよりもハイドリヒ、そのナチスの裏を支配する男こそ最も恐れているのだった。
だがその中でだ。彼にとって幸運なことにだ。ハイドリヒは急死した。ベーメンの副総督に任じられたがその地で連合軍とレジスタンスにより乗っている車を攻撃され死んだのだ。所謂暗殺である。
彼の死にだ。ゲッペルスはまずはだ。安堵した顔になってその官僚にこう話した。
「確かに謀略のエキスパートは死んだ」
「それは残念なことではありますか」
「人材としてはな。しかしだ」
「それでもですか」
「私も背中から撃たれる恐れがなくなった」
そのことをだ。ゲッペルスは心から喜んで言うのだった。
「それはいいことだ」
「左様ですか。そしてそれはです」
「君もだな」
「はい。あの方にだけは何をされるかわかりませんでしたから」
「そうだ。あの男は怪物だ」
ある意味においてだ。ヒトラー以上のだというのだ。
「死んでもらわねば私も困るところだった」
「その通りですね」
「さて、これで私の背中は安全になった」
「では内相は」
「相手にならない」
ヒムラーについてはだ。ゲッペルスは絶対の自信があった。
「何度も言うが彼は官僚に過ぎない」
「それに対して閣下はですね」
「私は政治家だ。そして総統閣下の片腕だ」
この自負があった。ゲッペルスは政治面で言えばまさにヒトラーの片腕、ブレーンなのだ。政治においては天才とも言えるヒトラーのそれを支えているのだ。
その能力を自負しているからこそだ。彼はヒムラーについてはこう言えたのである。
「それでどうしてだ。ただの官僚に過ぎない彼を恐れる」
「その様なことは有り得ないと」
「その通りだ。どうということはない」
また言うゲッペルスだった。
「後はだ」
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