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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十二話天下の乱れんことを悟らずして
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細巻をふかしながら言った。昼下がりの時とは全く異なる声色と口調であった。

「それで――貴様はどうするつもりなんだ」
 部屋の主である新城も千早の眉間を揉みながら細巻をふかしている。

「――ん、どうすると言われてもなぁ。これが終わったら。連隊の補充に再戦力化。後は内王道防衛体制の構築じゃないかね。
無論、ここの救援に引っ張り出される可能性も多々あるが……
ま、俺は駒城が重臣たる馬堂家の嫡男。〈皇国〉陸軍の将校。そういうことですよ」

「変わらないか」

「あぁ変わらないともさ、俺は馬堂家の嫡男だ」
 豊久が笑みを消して首肯する。

「なら俺はどうだ。馬鹿正直にあの言葉を信じるべきか?」
 
 豊久は軽く声を上げて笑い、肩をすくめた
「少なくとも、あの見通しのように動くかどうかは怪しいだろうな」

「貴様もそう思うか――龍口湾のやり口を見れば〈帝国〉軍が馬鹿正直にこの要塞に大層な戦力を張り付けるとも思えない。
本隊が動けば三個師団を動かせる。兵站の負荷があるならば余計に短期決戦を挑むだろう。
そのまま皇龍道へなだれ込んでもおかしくない、僕はそう考えるが」

 
「散々時間をかけて決まったのは時間稼ぎの方策だけだよ、後の事は軍監部ですらまとまっていないじゃないか?御上の方じゃさぞ横車ばかりで渋滞が起きているだろうさ。
だが――」
「思惑はどうであれ五将家も近衛も貴様に投資をしている。
ハッ!羨ましいと言ったら大嘘になるが奇跡のような存在だよ、この“新城支隊”は」

「“奇跡”、か」
 算術の教科書を朗読するかのような口調で新城はその言葉を舌先で転がした。

「奇跡なぞ、頼るものではないという事だ。特に誰かの気分が変われば消え去る類の奇跡には」
そういって豊久は短くなってきた細巻をもみ消した。
「――まぁ現実、この奇跡をどうにか地に足がついたものにする必要がある。
十月になれば虎城は雨期だ。雨と泥の中、虎城に侵攻する持久力を〈帝国〉軍持っているのかは怪しい。策源地からも離れ、兵站の負担は限界に近いだろう。という軍監部の読みも程度の問題はあれども事実なのは違いない
後は〈帝国〉軍の動き次第だが」
 
「そうなれば六芒郭の包囲にかかずらってはいられない、だから包囲部隊は短期決戦を狙う。特にあの姫様は勝利の美酒に酔っているからな。全てが自分の思い通りに動いているつもりだ。――我々はその通りに動いてしまった。この新城支隊以外は」
 
「――耐えてくれ、と言うしかないが。向こうが虎城突破を狙わない限り救援作戦は必ず実行される、それだけは俺が馬堂豊久として確約する」
 燐棒を擦り、火を灯す。
「‥‥‥」

「あとはどれだけこの件だけでも連携できる味方をつくるか、だな。所詮は五将家の寄せ集
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