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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十二話天下の乱れんことを悟らずして
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として明確に打ち出せる形態は導術と野戦築城を活用した静的防御、そしてまだ新編部隊ばかりの剣虎兵を利用した夜間浸透突破――これも匪賊討伐などの経験を積んだ下級指揮官がいる〈皇国〉になじみやすい戦闘教義であるが洗練とは程遠い状況である――しか存在しない。
そしてこの二つのやり口から会戦形態とことなり一定の独立戦闘力を持った部隊が必要となる。
要するにあれこれと想定すべき戦況が一挙に広がり、下級部隊に高度な対応力が求められるようになったのである。

だが――どのような思惑が産んだ結果であれ、籠城戦を命じた以上は兵站の手当てをせねば護られる対象の身すら危うくなるのは当然至極、故にこそ一時的に築かれた後方連絡線を護り抜かねばならない。
〈帝国〉軍は新城支隊と第十四聯隊の伏撃によって追撃の手を緩めている。だがいつ行軍を早めるか分からない。この兵站線を護れるほどに戦慣れをした諸兵科連合部隊であり、指揮官が六芒郭防衛作戦における上層部の意図――派閥抗争と妥協の果ての結論――を理解し、なおかつ新城直衛と密接な連携をとれる希少な人物であるという条件を満たすのは馬堂豊久率いる独立混成第十四聯隊だけであった。

「お久しぶりです、聯隊長殿」
 新城直衛はそれに輪をかけて特異な状況にある。もともとは1,500名と聯隊規模とはいえ大隊指揮官に過ぎない筈であった。それが今では一万に届かんとする兵を率いて一国の運命を担わされている。
 何故かと言えば北領からの数奇な運命――或いは産まれて駒州公爵家に拾われてからその全てか――とその環境が産んだのか生来の物か或いは双方が奇跡的に合致したのか判然とせぬが〈皇国〉軍の中でも随一ともいえる決断力と独自の観点が齎す異様な軍才を発揮し続けているからだ。
「あぁ、また顔を合わせることができて嬉しいよ、本当に」
 豊久は一瞬だけ笑顔を消していった。
「さて――それでは早速、目録を渡すとしようか」
 そういってパチン、と指を鳴らした時にはいつもの笑みを浮かべている。
「まずは工兵の増強大隊。南部突角塁をどうにか要塞化する事が主軸だ、従事可能な期間は5日から10日といったところか。〈帝国〉軍の動き次第だが、可能な限り安全なうちに脱出させたい、虎城防衛線構築においても彼らは重要な戦力だからな」


「要塞用大型平射砲と擲射砲各二十一門、計四十二門。玉薬はこの四十二門に各門5基数分、そして南部突角塁回収のための資材が第一便の内容だ。
これからは玉薬を優先して輸送する。それと元来の備蓄分を合計して各門に十三万発分を用意するべきである、と軍監本部は考えている」
 そう云って豊久は顎を撫でる。
「兎にも角にもここの防備体制を整えたいということだ」

「‥‥‥第三軍はどのような状況ですか?」

「蔵原に集まった面子も中々見る
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