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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十二話天下の乱れんことを悟らずして
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隊が大量の物資と装備を持ち込んだからであった。中には少数ながら嗜好品も持ち込まれている。
だが、だからといってこの喧騒はただの喜びのそれではなかった

 近衛の後衛戦闘を取り仕切る為に美蔵准将から預かった第5旅団の人員も吸収しているが管理を行う人員の不足を補いきれるものではない。むしろ本部要員が半壊しており、悪化したというのが実情である。故に大量に持ち込まれた物資の配分、備蓄管理という降って湧いた仕事は部隊の規模をはるかに超える大仕事であった。


 だが六芒郭の中枢であるはずの司令部庁舎が作戦室は周囲の喧騒から切り離されたかのような静寂に満ちている。この場にいるのは独立混成第十四聯隊と新城支隊、双方の部隊長と首席幕僚、副官だけである。輜重段列の指揮官らと新城支隊の他の指揮官幕僚達はみな降って湧いた大仕事の段取りをつけようと悪戦苦闘している。

 新城直衛はいつもと変わらぬ態度であった。一方の馬堂中佐もにこにこといつもの笑みを浮かべている。これもいつもと変わらぬ態度だ。米山はそのそばに控え、帳面を手にとっている。
この三人は北領で第十一大隊として悪戦を共にした者達であるが、今は友誼を温めようとする様子もない。

 藤森は噂こそ聞くことはあっても初めて顔を合わせるのであろう、馬堂中佐を露骨に値踏みするようにジロジロと眺めている。 天霧個人副官は新城のそばに控えているが常の個人副官のような艶っぽい様子はない。
 本来ならここに天龍の観戦武官が居るはずなのだが天龍族の政情が怪しいらしく、天龍たちの住まう龍塞へと帰っている。
 大辺は軍人というよりも学者上がりといった目つきで双方の様子を観察しながら思考を紡いていた。彼は聯隊首席幕僚であるが政治的な意味でも馬堂豊久の参謀役として活動している。要するに馬堂家の家臣として軍に所属している心積もりなのである。


「さてさて、直接、顔を合わせるのは何か月ぶりだろうな、新城司令」

 この場における最上位の指揮官である馬堂豊久中佐が口火を切った。彼と彼の聯隊は延々と龍州で戦い続けていた。その彼らの部隊がまともな補充も受けず、龍口湾から指揮下に組み込み続けた第十一大隊も切り離されてここにいる。

 何故かと問えばそれはある種きわめて当然の帰結である。ようするに独立完結した戦力で動ける部隊が彼らしかいないからだ。

 痛打を受けたとはいえあまりにも情けない状況ではあるが〈皇国〉軍からすれば致し方内面もある。そもそもからして軍の存在意義が薄れていた太平の世において、兵站管理が面倒で費用のかかる諸兵科連合部隊を新設しようなどという軍官僚は出世できない。それに天狼会戦敗走から始まる一連の敗走劇が戦争の定石を塗り替えてしまったのだ。
〈帝国〉軍相手に会戦形態において勝ち目がない以上、軍監本部
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