出逢い
本因坊
02
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2人は三年前の北斗杯のあと、ルームシェアを始めた。きっかけはヒカルの、「毎日碁会所に行くのダルい」という一言だった。丁度アキラの両親である行洋と明子が中国に行って、いつ戻ってくるかわからなかったので、アキラも都合がよかったのだ。
庭のししおどしがカコン、と音を立てた。壁にもたれかかって寝ていたヒカルはうっすらと目を開ける。塔矢亭の縁側に出て、酒を飲みながら打っていたんだっけ。少し痛む頭を押さえ、ヒカルは体をずらす。一方アキラは石を持ったままの姿勢でそのまま眠っていた。明日起きたら首を痛めそうな寝方だ。ヒカルはやれやれと首を振り、アキラを抱き抱えると寝室の布団に運んでいった。幸せそうに眠るアキラを見て、満足したヒカルは、自分の扇子をアキラの枕元に置いた。
ヒカルは着ていた袴を脱ぎ、シャツとスラックスという動きやすい格好に着替えた。そしてそのまま家を出た。鍵はポストに入れて、ヒカルは朝方の街を歩く。向かうのは祖父の家。歩いて1時間以上はかかるが、別段辛いとも思わなかった。
祖父の家につくと、まず蔵の鍵を取り出し、ヒカルは中に入る。梯子を上がっていくと、烏帽子の幽霊がとり憑いていた碁盤がヒカルを待っていた。丁寧に濡れた布巾で拭き、ヒカルは話しかける。
「佐為、オレ本因坊奪還したぜ。すごいだろ、褒めてよ」
碁盤は月の光に反射して飴色に輝く。
「あとは、お前に逢いにいくだけなんだ」
ヒカルはジャックナイフをポケットから出し、そして右腕に突き刺した。血が滲んでくる。じわじわとゆっくり。ヒカルは腕をかたむけて碁盤の上に置いた。血はぽたぽたと落ちた。
「まだ足りない」
ヒカルは突き刺したままのジャックナイフを横に引いた。血が溢れてくる。痛い、物凄く痛い。だが、佐為に会えず苦しむ胸の痛みより遥かに優しい。
腕を碁盤にこすりつけ、碁盤は真っ赤に染まった。ヒカルはそれを見て満足そうに微笑む。
「ほら、佐為、オレこの血のシミ見えるよ。出てきてよ」
ヒカルは遠のいていく意識の中、ただ1人笑った。
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