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八神家の養父切嗣
五十九話:Snow Rain
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のがあった。誰一人として救えなかったわけではない。確かにこの手で救えた者がいたのだ。世界を救う正義の味方にはなれなかった。それでも―――誰かのための正義の味方にはなれたのだと気づくことができた。

「そうや。ホント、気づくのが遅いんや、おとんは」
「そうだね。本当に……気づくのが遅いね。いつまでも時間はないのに。どうしてこんなに遅いんだろうか」

 もっと早くに気付くべきであった。そうすれば何かが変わっていたかもしれない。しかし、終わってしまったものはどうすることもできない。求めたものは手に入らなかった。大きすぎる大望は身を滅ぼしただけであった。しかし、何一つとして手に入らなかったわけではない。


「でも―――小さな安らぎは得ることができた」


 小さな、小さな安らぎを得た。それは望んだものに比べれば微々たるものであろう。だが、それでよかった。元よりこの身には過ぎた願望。人の器では収まりきらない。しかしながら、この小さな安らぎであれば例え地獄に落ちたのだとしても覚えていられる。

「ありがとう、はやて。僕はこれだけで……満足だ」

 一体いつ以来であろうか、心の底からの穏やかな笑みを浮かべ娘の頭を撫でる切嗣。もう子供ではないと思い恥ずかしがりながらもされるがままになるはやて。確かにそこには十年前に置き去りにされた親子の姿があった。

「何言っとるんや。これからはアインスも含めて家族でもっと―――」



「―――ああ、その通りだよ。衛宮切嗣がその程度の欲望で満足するなど実に下らない」



 突如として親子の触れ合いをぶち破る心底つまらなそうな声が響いてくる。戸惑うはやてとは反対に切嗣はすぐにその正体に気づき殺したはず(・・・・・)の男の方を見ようとする。しかし、相手はその猶予すら与えない。幾重もの魔力で編まれた刃がはやての背を目がけて襲い来る。

「はやてッ!!」

 魔力も失い自由の利かない体をアインスと共に無理やり動かしはやてに覆い被さるように庇う。そんな親の背中に剣は容赦なく降り注いでいく。非殺傷設定などされていないそれは容赦なく肉を突き破り真っ赤な花を咲かせるように辺りに血を撒き散らしていく。しかし、どれだけ剣が降り注ごうとも切嗣は決して動かない。何故なら彼は―――娘を愛する父親だから。

「残念だよ、衛宮切嗣。君は私と同じ無限の欲望の持ち主だと思っていたのだがね」

 はやて達の耳に再び男の声が届くが何の反応も返さない。父は娘を見つめ、娘はコートを血で赤く染める父の姿を見つめる。
 頬を伝う―――父の体から零れ落ちた生暖かい何かがはやての頬を伝っていく。絶望が彼女の心を覆いつくす。

「……無事かい?」
「う、うん。大丈夫や……」
「そっか……ああ――安心した」

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