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八神家の養父切嗣
五十九話:Snow Rain
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ている状況に何とも言えぬ声が零れる。一緒に暮らしていた時はこのようなことはなかった。体が大きくなったこともある。だがそれ以上に文字通り一人で立つことができなかった娘は成長し今はその足でしっかりと大地を踏みしめているのだ。

「そらそうよ、もう十年も経ったんや。私だっていつまでも誰かに支えられてるわけやないんよ」
「十年か……通りで僕も老いるわけだ」

 まるで十年分の疲労が一気に押し寄せたかのような脱力感が体を襲う。気づけば四十手前だ。子供のような夢を抱いて生きてきた。それを人の生の半分近くもなのだから笑いが出てくる。

「なあ……なんであの時真正面から破りにきたん。シグナムの時みたいに特殊な銃弾で撃てば私の負けやったのに」
「………弾を入れ替える時間がなかっただけさ」

 少しの沈黙の後に切嗣が答える。それは真実であり嘘でもあった。そもそも今回の戦いで切嗣は一発たりとも起源弾を使用していない。せいぜいが撃つと警戒させブラフ代わりに使った程度だ。本気で殺しにいった。だが、結局のところ致命傷はただの一度も与えられなかった。その理由がなんであるかなど語る必要もないだろう。

「はぁ……結局、肝心なところでへまをする。これじゃあ世界なんて救えなくて当たり前か……」

 この十年間、心のどこかでいつも考えていた。自分に世界を救うことなどできるのかと。そんな自分自身を信じることのできない人間に世界を救えるはずなどない。こうして娘の前に敗れ去るのはあの日から決まっていたのだろう。そう、自嘲する。そんな切嗣に対してはやては。

「まーた、それか!」
「痛ッ!?」

 全力でチョップを食らわした。突然のことに目を白黒させる切嗣にはやてはこれ見よがしに溜息をついて見せる。この男はいつも自分の本当の気持ちを覆い隠して、やらなければならないことを行うから矛盾が生じて結局何一つ達成できないのだ。

「世界を救うのが本当にしたかったことやないんやろ?」
「な、なにを言っているんだい?」
「なら聞くけど、なんで全ての人を生き返らせて不老不死にするっていう方法にこだわるん? 別のやり方じゃあかんのん?」

 切嗣はそう言われて考える。確かに世界を救うというだけなら最高評議会の方法でも構わなかった。だが、自分は世界が救われるというのに彼らを裏切った。その理由は死んでいった者の死が許せなかったからだ。

「それは……僕は全てを救いたいから」
「犠牲にしてきた人達を無駄にしたくないのがおとんの基本やろ。昔っから生き返らせたいなんて願っとったわけやないやろ」
 
 今までの犠牲を無駄にしたくないという理由で娘すら殺そうとした。だが、確かに生き返らせることなど願ってはいなかった。仮にあの時に聖杯が存在していたとしてもただ未来に託すだけだっ
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