巻ノ四十八 鯨その十三
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主従は一時の話彼を告げて今は別れた、そして早速だった。
幸村はは筑前を調べだした、そこはまだ確かに大友領だった。だがその勢いは最早昔日のものであり。
兵達の顔にも覇気がない、それでだ。
その彼等を観てだ、幸村はこのままでは大友家は敗れると確信した。そのうえでだった。
立花山城に来た、だがここで。
ふとだ、飯屋に入った幸村の前にだ、一人の質素な身なりをした若い侍が来た。その侍を見て即座にだった。
幸村は彼にだ、こう言ったのだった。
「名のある方とお見受けしましたが」
「おわかりですか」
「まさかと思いますが」
「はい、貴殿が来られたと聞いて」
そしてというのだ。
「こちらに参上しました」
「それがしがということは」
「真田源二郎幸村殿ですね」
「はい」
その通りとだ、幸村は若侍に答えた。
「ここは隠しても無駄ですな」
「その通りかと」
若侍は澄んだ強い声で幸村に答えた。
「少なくともそれがしは承知しております」
「それがしがここに来たことは大友殿にも内密ですが」
「殿はご存知ありません」
主である大友宗麟はというのだ。
「そして他の方々も」
「しかしですか」
「拙者と父以外は」
「父上、といいますと」
「はい、それがしはです」
ここで若侍は名乗った。
「立花彌七郎宗茂と申します」
「何と、貴殿が」
幸村は和侍の名乗りを受けて小さいが声を出した、東西の若き英傑達が今ここで顔を見合わせることとなった。
巻ノ四十八 完
2016・3・6
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