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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十八話 内乱への道 (その1)
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なことではないはずだ。
今、帝国で司令長官ほどの実力者はいない。その実力者を平民であるというだけでブラウンシュバイク公も、リッテンハイム侯も忌諱している。彼らが司令長官を忌諱するのなら司令長官も彼らを否定するだろう。その事に彼らは気付かないのだろうか。
「彼らが待つ事を選んだのには他にも理由があるからだ」
重苦しい雰囲気を跳ね除けるように養父が口を開いた。私もようやく顔を上げて司令長官を見る事が出来た。穏やかな表情をしている……。
「今の卿は味方も多く磐石と言って良い。だが十年後の卿は分らぬ。リヒテンラーデ侯、エーレンベルク、シュタインホフ、彼らが健在だという保証は何処にも無いのだ」
「……時間は彼らの味方だというのですね」
「そうだ。彼らにとって焦る必要は無いのだ。十年の間に隙を見つけ彼らは簒奪に動くだろう」
また沈黙が落ちた。司令長官は伏し目がちに何かを考えている。右手で軽く左腕を叩きながら何かを考えている。養父は何故私をこの場に居させたのだろう? 私に何をさせたいのだろう?
「やはり早急に片付ける必要がありますね。問題の先送りは帝国にとって何の利益も有りません。反乱軍が勢力を回復する前に国内の問題を片付けます」
「彼らを暴発させるのであれば、余程の策がいる。有るのか策が?」
「……有ります。彼らを必ず暴発させます」
「!」
静かな、決意に満ちた声だった。司令長官はまた戦おうとしている。反乱軍との戦いが終わったばかりだというのに新たな敵との戦いに身を投じようとしている。
「ヴァレンシュタイン司令長官……」
「フロイライン、私は大丈夫です」
「……」
私は何を言おうとしたのだろう。良くわからない。でも言葉にする前に封じられてしまった……。
「私はシャンタウ星域で一千万近い反乱軍の兵士を死に追いやりました。今度内乱が起きれば、また何百万という帝国の人間を殺す事になります」
静かに司令長官の声が流れる。聞きたくない、そんな言葉は聞きたくない。私は思わず顔を伏せた……。
「気が重いですね。でも退く事は出来ません。フェザーンと自由惑星同盟を征服し、宇宙から戦争をなくすためには先ず帝国から内乱の根を取り除く必要があるんです」
思わず司令長官を見た。私に微笑みかける彼がいる。彼は苦しみながらも必死に前へ進もうとしている。誰のためでもない、これ以上戦争で苦しむ人を出さないために戦おうとしている。
どうして軍人になどなったのだろう? 何故出世してしまったのだろう? 神様はどうしてこの人に穏やかな生き方を選ばせてあげなかったのだろう。
「一つだけ教えてください」
「ええ」
「もう一度、人生をやり直せるとしたら、同じ道を歩みますか?」
「……歩きたくはありません。
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