巻ノ四十八 鯨その八
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「見られて幸いに思う」
「そう言うか」
「そう思っておる」
「そうか、そう言うと余計にな」
さらにとだ、船頭はその幸村にこう言った。
「幸が来るだろうな」
「それは何故じゃ」
「運というものは欲がない者に来る」
「それでか」
「だからな」
幸村には欲がない、それでというのだ。
「あんた達には幸が多くもたらされるだろうな」
「だといいがな」
「九州でもそうなるだろう」
まさにというのだ。
「全員無事に生きて帰れるな」
「そう願う」
「ははは、それは願うか」
「うむ、そのことはな」
「しかしそれ以上は望まぬな」
「その通りじゃ」
「ならその欲のなさが運を余計にもたらすわ」
こう幸村に言うのだった、鯨達は自分達を見る幸村達のことなぞ全く意に介さず大海を悠然と泳いでいた。
そしてその彼等を見つつだ、幸村達は港に入った。
博多の港に降り立ってだ、幸村はまずこう言った。
「何かのう」
「何か?」
「何かとは」
「いや、上田から九州に来た」
このことがというのだ。
「感慨があるのう」
「はい、言われてみれば」
「そうですな」
「遠い国に来ましたな」
「我等も」
「このことに思う」
また言うのだった。
「はるばるとな」
「ですな、九州ですか」
「我等は色々な国を巡っていますが」
「今度はですな」
「九州ですな」
「そしてな」
その目を光らせてだ、幸村はさらに言った。
「島津家のことを隅から隅まで調べるぞ」
「では殿」
「我等はこれよりですな」
「九州の各国にですな」
「散るのですな」
「途中まではな」
こう返した幸村だった。
「そうしようぞ、しかし」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「問題は三国じゃ」
幸村は十勇士達に真剣な面持ちで述べた。
「薩摩、大隅、日向のな」
「島津家の本来の領地」
「その三国ですな」
「この三国は違う」
今島津家が領有しているのは九州の大部分だ、しかしその中でも本来の領地であるこの三国は別格だというのだ。
「何といっても島津家の拠点だからな」
「守りが固い」
「そうだというのですな」
「しかも言葉が違うという」
幸村はこのことも言うのだ。
「我等とはな」
「言葉が違う」
「と、いいますと」
「同じ日の本の言葉ではある」
このことは確かだというのだ。
だがそれでもとだ、幸村は言うのだ。
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