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真田十勇士
巻ノ四十八 鯨その七

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「落ちたら終わりじゃ」
「そうした場所じゃな」
「だからな」
「そうした勘もなくてはだな」
「やっていけぬわ」
「山も海も同じか」
「生きる為には勘も必要じゃな」
「確かにな」
 二人でこうした話もしたのだった、そして。
 博多の港が見えてきた、その時に。
 十勇士達はその港を見てだ、口々に言った。
「さあ、いよいよじゃな」
「九州じゃ」
「九州での仕事じゃな」
「それをはじめるか」
「うむ、いよいよじゃ」
 幸村も彼等に言う。
「それがはじまるぞ」
「そうですな、では」
「博多に着きましたら」
「そこからですな」
「何があるかじゃ」 
 こう話すのだった、そしてだった。 
 彼等は港を見ていよいよを意気込んだ、その彼等に。
 船頭がだ、笑みで声をかけてきた。
「後はあんた達の仕事のはじまりだが」
「だが?」
「だがというと?」
「何かあるのか?」
「右を見るんだ」
 船の右舷の方を指差して言うのだった。
「いいものがおるぞ」
「いいもの?まさか」
「まさかと思うが」
「ああ、そのまさかだ」
 こう言って彼等にそれを見せた、すると。 
 その右の海の方にいた、三匹程だ。
 魚とは到底思えないだけの大きなものが泳いでいた、それを見てだった。
 十勇士達は目を瞠ってだ、こう言った。
「何と」
「何ということじゃ」
「あの様な大きさとはな」
「この船程ではないが」
「それでもな」
「相当な大きさじゃな」
「下手な小舟よりなぞ一口じゃな」
「あれが鯨よ」
 船頭はその黒くて大きな泳いでいる魚の様な生きも達を指差して言った、時々海面に背中を出してそこから大きく潮を出している。
「海で一番大きなものだ」
「そうか、あれがか」
「鯨か」
「そうなのじゃな」
「そうだ、あれが見られたら運がいいと言ったが」
 その鯨がというのだ。
「実際に見られたな」
「では、か」
「我等は運がいい」
「そうなるか」
「そう思っていい」
 船頭達は十勇士達にはっきりと告げた。
「殿様にしてもな」
「うむ、観られて何よりだ」
 幸村は船頭にだ、微笑んで応えた。
「これだけでも幸いに思う」
「むっ、そう言うか」
「何しろ滅多に見られないと聞いておったからな」 
 それ故にというのだ。
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