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TANGO NOIR
3部分:第三章

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第三章

「それじゃあ頂くわね」
「うん、どうぞ」
 私はそのカクテルを手に取って飲む。その味を楽しみながら。
 そのうえで相手に。こうも言ってみせた。
「カクテルだけじゃなかったわ」
「それだけじゃないっていうと?」
「彼には色々なものを教えてもらったわ」
 今度はこのことを話した。
「その他にはね」
「何があるのかな」
「ダンスよ」
 それも教えてもらった。彼に。
「それもなのよ」
「そのダンスは何かな」
「タンゴよ」
 彼に教えてもらうまではそれも知らなかった。カクテルと同じで。
「それも教えてもらったのよ」
「おやおや、それはまた」
「どう思うかしら。その彼のことは」
「妖しいね、本当に」
 声は私の今の言葉に余計に楽しそうに言ってきた。
「それはまたね」
「そうでしょ。それでね」
「それでなのね」
「今からこの店じゃタンゴをやるけれど」
 そのタンゴが。これからはじまるというのだ。
「どうかな」
「生憎だけれど人は選ぶわ」
 相変わらず前を向いたまま。私は言ってみせた。
「そうしているのよ」
「人を選ぶんだ」
「そうよ。それでね」
「それで?」
「私に言うことはないのかしら」
 相手に尋ね返してみせた。
「何かね」
「何かって?」
「少し遅かったわね」
 ここでは少し溜息を込めて文句にしてみせた。
「何をしていたのかしら」
「仕事が忙しかったんだ」
 相手はこう私に言ってきた。
「それでなんだ」
「仕事?」
「そう、仕事だったんだよ」
「どうかしら」
 半分冗談で半分本気の言葉だった。

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