第十話 再開を祝して
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佐世保鎮守府内酒保――。
二人はクリームパフェを目の前において、向かい合っていた。
南西諸島奪還作戦の激戦後、2日後の事である。負傷した艦娘を無事だった攻略艦隊や護衛艦隊で大至急佐世保鎮守府に搬送、その後事後処理や南西諸島への建設資材や航空資材の搬入、その護衛など息をつく暇もないほどの激務の末、ようやく紀伊と讃岐は束の間の休息をとることができた。
目の前の妹は鼻歌を歌いながらにこにこと嬉しそうにこちらを見ている。
「あの・・・・私の顔に、何かついてる?」
「いいえ〜。姉様のお顔を見れるだけで、幸せですもの♪」
「そ、そう・・・・。」
紀伊は当惑したように讃岐を見た。
「でも、ごめんなさい。」
紀伊は頭を下げた。讃岐は不思議そうな顔をした。
「私、妹たちの事全然覚えていなくて・・・期待させていたのなら本当にごめんなさい。」
「なんだ、そんなことですか。讃岐は全然気にしていません。紀伊姉様とこうしてお会いできただけでとても幸せいっぱいですもの。それに、私たちのことはこれから知っていただければいいんです。」
紀伊は妙な気分だった。ずうっと噂されていた妹といざこうやって再会をしても不思議と実感がわいてこない。それはそもそも自分に妹たちに関する記憶が欠落しているせいなのだろうか。そう思うと無性に寂しく、申し訳なく思ってくるのだった。でも、妹たちのことを知りたいという気持ちもあることもまた事実だ。
「それに、姉様は私たちが就役する頃には、私たちとは別の場所に移されていましたし。」
「そうなの?」
それは横須賀鎮守府でのことなのだろうか。そのあたりのことは紀伊はぼんやりとしか覚えていない。それを話すと、讃岐はうなずいて言った。
「紀伊姉様はおぼえていらっしゃらないと思っていました。私たちが生まれて・・・・ううん、なんて言ったらいいかな・・・・その、艦娘としての自覚をもってから紀伊姉様のところに会いに行ったりしたんですけれど、姉様はずっとぼんやりしていました。たぶん私たちのことも誰だかわかっていなかったんじゃないかな。」
どこか歯切れが悪そうな口ぶりだったが、紀伊にはそれを感じ取る余裕はなかった。
「そうなの・・・?」
紀伊は不安になっていた。普通の人間・・といっても艦娘である時点で普通ではないのだが、それでも目の前の人間を認識できないことなどあるのだろうか。会っているのだから顔くらい覚えていて不思議ではない。だが、讃岐とはあの洋上で会ったのが初対面だという感覚は抜けていない。
いったい自分は何者なのだろう。
これまで幾度となく感じてきた思いがまた胸の内に浮上してきた。
「でも、姉様。そんなことは気になさらないでくださいね。今こうしてお会いできて話ができるだけで讃岐は幸せですから。」
妹はにっこり
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