第十話 再開を祝して
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速力をだし、他の艦を引き離して現場に急行してきた。あれがなかったら、装甲空母鬼を仕留めることができなかっただろう。だが、不思議なのはいくら空母の性質を持っているとはいえ、戦艦並の大きさの奴がどうしてそこまで高速を出せるのかということだ。駆逐艦すら凌駕するほどの。これについては一つ妙な目撃証言がある。紀伊の足元から瞬間的に噴進煙のようなものが出て、一気に速力が上がったというんだ。
なるほど、ただの空母と戦艦の合いの子ではないっていうことか。なんにしてもまだまだ紀伊の奴には秘密がある。まぁ、もっとも根掘り葉掘り聞くのは本人が嫌がるだろうし、第一自分が何者なのかわからないと言っているくらいだから、俺はわざわざそういうことは聞かないけれどな。
横須賀鎮守府は初夏の陽気すら漂わせる陽ざしの中静かに佇んでいた。その埠頭に一人銀髪をなびかせながら海上を見つめる艦娘がいた。大きな目の中には冷たい見るものを凍てつかせるような青い瞳が宿っている。銀髪の中に青い髪が見え隠れしている。黒の上衣に青い大きなスカーフを身に着けていた。
「ここにいたのね。」
背後から声がしたのに、その艦娘は振り返らない。
「尾張、駄目じゃない。勝手に会議を抜け出してしまうのは。」
戦艦陸奥が尾張の後ろに立っていた。
「内容がバカバカしすぎて聞いていられなかっただけよ。」
尾張はちらと陸奥を横目で見たが、すぐに目を大海原に戻した。
「南西諸島攻略作戦をもし私が指揮していたらと思うと、残念でならないわ。あんな下手な戦闘をするなんて、各鎮守府の提督はいったいどんな艦娘を艦隊指揮官にしたの?私ならどんな弱小艦娘であろうと一艦たりとも大破させずに島を制圧できたのに。」
「ふうん?」
「掩護は戦艦の火力と空母の制空戦闘だけで充分よ。そのほかは後ろで黙って見物していればいいの。私の戦いぶりを。」
「まさかとは思うけれど、あなた一人で南西諸島を制圧できる、なんていうつもりじゃないでしょうね?」
「さぁ、どうかしら。」
妙に冷たい口ぶりに陸奥は一瞬眉をしかめ、目を細めた。
「流石に私もそこまでは言わないわ。でも、これからの時代は次世代型である私たちが主力を担うべきなの。駆逐艦や軽巡による水雷戦はもう時代遅れ。艦隊決戦だっていずれは終わるわ。対深海棲艦戦はすべて航空戦闘にかかっているの。でも、空母もダメね。被弾すればただの置物だもの。戦艦クラスの対空火器と主砲、そして装甲を兼ね備え、空母並の艦載機運用能力を有する万能型の私たちこそが中核を担うべきなのよ。」
「・・・・・・・・。」
陸奥はしばらく無言だったが、やがて深い吐息を吐いた。
「あなたは何もわかっていないわ。そんなことでは作戦を任せるどころか、艦隊旗艦としても認められない。」
尾張は前を向いたまま動かなかった。
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