第十話 再開を祝して
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つめていた。紀伊は緩やかに首を振り、このとてつもなく重い命題から逃れようとした。先に感じていた「自分は何者なのか。」という問い同様、いや、それ以上に回答には時間が必要だ。それは誰かから与えられるのか、自分で探し出さなくてはならないのか、まだわからないが、簡単な数式のようにすぐにとける問題ではないことは確かだった。紀伊は話題を変えた。
「初陣はどうだったの?私はとても緊張して震えていたわ。」
「私はどちらかというと楽しんでいました。ピクニックだって思わず言ってしまって、後で怒られましたけれど。」
ふふっと紀伊は笑った。
「あ、やっと、笑ってくださいましたね。安心です。ずうっとお顔の色が優れなかったのですもの。」
「ええ・・・・。」
紀伊は窓の外の入きょ施設を見た。そこには翔鶴以下の重傷者が今も入院しているはずだった。特に翔鶴は意識が戻らず重体である。瑞鶴はずっと翔鶴の集中治療室につきっきりでいる。伊勢も扶桑もそれぞれ負傷した妹のもとにいる。そう考えると、今こうして無事に妹と向かい合っていることがなんだか申し訳ない事のように思えてくる。
「皆さんのことですか?私が言うの変かもしれないけれど、きっと大丈夫です。」
「どうしてわかるの?」
「信じるからです。姉様。もう駄目なんだって思っちゃったらそこで終わりです。どんなにヤバい状況だって信じていれば何とかなるんです。讃岐はそうやって生きてきました。」
ポジティブな思考ね、と紀伊は思ったが今はそれが羨ましかった。
「そっか、そうよね。私も信じなくちゃね。」
紀伊はうなずいた。ふと視線を転じて目の前のパフェを見る。長かった話のあいだ手を付けられなかったパフェは解けかけている。
「ごめんね。溶けちゃうわね。食べましょうか?」
「はい!」
一口スプーンですくって口元に入れる。とたんに芳醇な香りと甘いクリームのふわりとした触感が口に広がった。
「おいしい・・・!」
紀伊は思わずそう言い、讃岐もうなずいた。
「ここのパフェはとっても絶品なんですよ!普段はなかなか食べられなくて、たまに提督が頑張ったご褒美に間宮券を出してくださったときなんかに食べに来るんです。」
私たちのところと同じなのね、と紀伊は思った。それにしても、と紀伊は思う。
間宮券の「間宮」とはいったい何なのだろう?チェーン店の名前だろうか。
執務室にて、提督のモノローグ――。
南西諸島攻略作戦は終了した。大きな犠牲を払って。日向も中破し、足柄以下も大小の傷を負っているとの報告が来た。命に別条はなかったから俺は安心した。だが、一番衝撃を受けた報告がある。翔鶴が意識不明の重体だというのだ。信じられなかった。報告に来た鳳翔に何度も確認してしまったほどだ。さすがに鳳翔は冷静だったが、声は心なしか震えていたようだった。無
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