巻ノ四十八 鯨その六
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「滅んでしまった無念はあろうがな」
「では、ですな」
「平家の者達の為に祈りましょう」
「その冥福を」
「ここで」
「そうしようぞ、今から」
幸村は最後は静かに言った、そしてだった。
自ら率先し目を閉じて瞑目した、その彼に続いて。
十勇士達も瞑目した、その上で平家の者達の冥福を祈ったのだった。
それが終わった時にだ、船頭が幸村のところに来て声をかけてきた。
「さて、もう少ししたらな」
「博多であるな」
「そうだ、あと少しだからな」
「うむ、この旅ももう少しで終わるな」
「海が荒れずよかった」
船頭は笑ってこのことを心から喜んだ。
「荒れてはな」
「下手をすれば波に飲まれてだな」
「船諸共だ」
それこそというのだ。
「皆死んでおった」
「それが船旅の怖いところだな」
「そうだ、海が荒れる時はわかる」
「どうしてわかる」
「風の匂いが変わるんだ」
荒れる時はというのだ。
「微妙にな」
「そうなのか」
「あんたもわかると思うが」
「天気が荒れる時はか」
「あんた位になればな」
「確かにな」
そう言われるとだ、幸村もだった。納得がいくことだった。
「風も空気の匂いも変わる」
「気配全体がな」
「それでわかる」
「やっぱりそうだな」
「忍術の鍛錬は山や川、谷の中を動き回る」
「そしてその中でだな」
「わかるようになった」
こう船頭に話した。
「そういうことか」
「そうだ、わし等もずっと海にいるからな」
「わかる様になったか」
「同じだ、あんた達とな」
「常に海におるとわかるか」
「ああ、嵐が来るかどうかもな」
「そして嵐が近付けばか」
その時はとだ、幸村も言う。
「対する」
「そうしている、強い嵐だと船を岸に停める」
「難を逃れる為にか」
「そうすることもある」
「そうか、そうなってはか」
「船が沈むからな」
大荒れの海で船を進めてはというのだ。
「だからな」
「そうするか」
「実際にそうした時もある」
「左様か」
「船は板の下はじゃ」
「その一枚下はじゃな」
「地獄じゃ」
まさにというのだ。
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