巻ノ四十八 鯨その四
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「安芸に帰る」
「そうするのか」
「そして暫くは休みだ」
「そうか、わかった」
「戦になればまた出る」
「九州にだな」
「うちの殿様も出陣されるしな」
彼等が仕えているのは毛利家、それも毛利家を支える小早川家にだ。毛利家は当主輝元を支える彼の二人の叔父である吉川元春、小早川隆景が支えていた家で今もこの両家が毛利家の両翼となっているのだ。
「だからな」
「そうか、では水軍の戦になればな」
「思う存分暴れる」
楽しげに笑っての言葉だった。
「そうする」
「そうか、それがしは暫く九州にいる」
「そうなっておるな」
「うむ、そうなる」
こうした話をしてだった、そして。
幸村主従は船に乗り瀬戸内を進んで博多に向かっていた、船旅は順調で。
本州と九州の近くの海に来たところでだ、十勇士達は感慨を込めて言ったのだった。
「ここがじゃな」
「うむ、壇ノ浦であるな」
「平家が滅んだ場所じゃな」
「この海がな」
「そうであるな」
幸村もその海を見て言う。
「ここで平家が完全に滅んだ」
「栄華も夢の跡」
「一時の」
「平家はここで敗れ消え去った」
「まさにそうなりましたな」
「悲しいことに」
「栄枯盛衰は世の常」
無常を感じつつだ、幸村は述べた。
「そして平家はな」
「色々とですな」
「無道をしたといいますとありますな」
「うむ、その殆どが偽りであるが」
しかしというのだ。
「無理はしておったな」
「そのこともありですか」
「因果も巡り」
「平家は滅んだ」
「この壇ノ浦で」
「まさにそうなった」
こう十勇士達に言うのだった。
「諸行無常の言葉通り」
「そして平家を倒した義経公もまた」
「兄である頼朝公に討たれましたな」
「衣川において」
「そうなりましたな」
「そうなった、しかし源氏はあまりにも身内でいざかいが多かった」
このことについてはだ、幸村は無念の顔で言った。
「何かとな」
「そういえばそうですな」
「源氏は常にまず身内で争っていました」
「平家と戦うよりも」
「まず身内で、でした」
「平家にはそうしたことが殆どなかった」
保元の乱の時はあった、しかし清盛が棟梁となってからは全くなかった。平家は身内で争う家ではなかったのだ。
「それを見るとな」
「源氏は、ですな」
「あまりにも惨いですな」
「身内で殺し合ってばかりいた」
「そうした家でしたな」
「そして滅んだ」
源氏もまた、というのだ。
「実朝公の後血筋は全く絶えたな」
「はい、為美公の血筋は」
「まさに完全に」
「それではじゃ」
まさにというのだ。
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