暁 〜小説投稿サイト〜
魔法少女リリカルなのはStrikers〜誰が為に槍は振るわれる〜
第一章 夢追い人
第9話 とあるスパイを自称する陸曹の日常
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 冷たい雨の降る暗い場所から、温かみのある部屋に。
 どこにでもある、白い壁紙に覆われた部屋のその中心に据えられたテーブルを囲み、金髪に左目に眼帯を着けた少女と、白髪で無表情な少年(せいねん)が朝食を摂っていた。
 ただの朝食の合間に挟む世間話のネタとして少年(せいねん)の昔話を聞いた少女は、思いもよらず重い話に、少年(せいねん)の淹れたキャラメルミルクを飲む手を止め、顔を引き攣らせていた。
 しかし少年(せいねん)からしてみればただ単にしろと言われた話をしただけである。
 少女のあまりよくない反応の理由が分からず、首を傾げる。
 その様子に少女は、どこかあきらめたように深い溜息を吐いた。

「あぁ〜も〜。この子は相変わらず機械みたいだな〜もう!」
「いや、おれはちゃんと成長している。なぜなら、マスターときちんと会話の“ドッジボール”ができている」
?いやいやいやそれを言うならキャッチボールです?
「いや〜この状況はもうドッジボールのほうが正しいように思えるな〜」
「? どちらが正しい使い方なんだ?」

 そのとぼけた反応に、少女とその左手の中指に納まる“緑色の宝石の戴く白い指輪”がさらに深い溜息を吐く。
 二人が今朝何度目になるか分からない溜息を吐く原因の少年(せいねん)は二人の反応におかしなものを見るような視線を向けるが、今の青年なら分かる。どう考えても、これは少年(せいねん)が悪かった。

「ま〜とにかくさ。がんばってね、そのぶんなげられたその子のやることってやつ。けっこう難しそうだけど、きっとできるよ。あたしもできるかぎり手伝ってあげるからさっ♪」
?私も手伝いますよ?
「……すまない。面倒をかける」
「だぁーーーーもうこの子は!!」

 頭を下げる少年(せいねん)に少女はビシッと指を突きつける。
 少女の怒った様子に、首を傾げる少年に、彼女は――優しく笑いかけた。

「そういうときはね、すまないじゃなくてありがとう、だよっ♪そっちのほうがずっとずっとず〜〜〜〜とっ、嬉しんだからさ♪」

 少女のその笑顔に少年(せいねん)の口元にほんの微かに、本当に微かに、笑みが浮かんだ。

「――ありがとう、マスター。いや、クロロ」

 少女の名は、クロロ・クロゼ。
 少年(せいねん)を、ただの契約を履行するための機械から人へと変えてくれた少女であり、そして――青年が初めて愛した女性。
 しかしもう、自分は彼女の元にはいない。
 この温かくて、優しい場所から出て行ったのだ。
 そして当時の少年(せいねん)もまた、彼女の背中を追い、この場所から出て行った。
 かつて結んだ少年との約束と、そして、彼女との言葉を守るために。



 その手に、(さつい)を手にして。

 



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