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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 21
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談抜きで死んじゃうって、本当に……)

 全力の上に慎重さを重ね、放たれた矢の如く疾走するとか。
 我ながら人間技じゃないわ!

 などと、愚痴と賞賛を混ぜた独り言を、頭の中だけで喚きつつ。
 辿り着いたグレンデル親子の家の裏手、外壁のわずかな凸凹をよじ登り、二階部分で開かれたままになっていた窓から侵入する。
 少し広い廊下に足裏を下ろすと。
 前方に二つ並んだ部屋の扉、右手側に踊り場付きの階段があった。

「お邪魔します」

 予想通り(から)になっていた家の中で律儀(?)に頭を下げ、一階へ下りる。
 正面の玄関扉は閉ざされているが、遠目に様子を窺った時は外側に男性が二人残っていた。彼らに気付かれないよう、極力物音を抑え、階段左手側に設置されている食事場へ踏み込む。

 そして、見つけた。

 木製の四角いテーブルの上。
 飴玉やビスケットなど、色彩豊かな小花柄の包装紙に包まれている大量のお菓子で作られた山が二つと、未開封なマーマレードの小瓶が一本。
 それを挟んで向かい合う二脚の椅子それぞれに、縄で縛り付けられているイルカのぬいぐるみと、ハウィスの家にある筈のくータンがいつもとなんら変わりない姿で座っている光景を。

(……そう、か……あの日はずっと家に居たのに、部屋にあったくータンが盗まれてしまったから。だからハウィスは、護衛を付けてまで、私を国外へ隠したのね。私に危害が及ばないように……)

 くータンがグレンデル親子の家にあることにも驚いたが。
 何よりも目を引いたのは、イルカのぬいぐるみと同じ縄で縛られている
 『銀の台座に丸型の青い石を乗せた女物の指輪』だ。

 何者かに奪われた筈の指輪の特徴、そのものを目にしたミートリッテは、用意されていた異常な光景の意味を正しく理解し、やはり自分はこの場所へ誘導されていたのだと確信する。
 いや、本当に呼ばれたのは多分、ミートリッテではなく……。

「……ごめんね、アルフィン……。今すぐ、迎えに行く……っ!」

 かつてアルフィンの誕生日に贈った、自作品第二号のイルカを撫で。
 解いた縄から、例の指輪を取り外す。
 グレンデル達が帰ってくる前にと、急いで二階へ上がり。
 侵入とは逆の手順で家を、その足でネアウィック村を脱出した。

 人影に注意を払い、行く先は果樹園が広がる山を越えて、更に北。
 『奴ら』の暗号が示す、アルフィンが捕縛されている場所だ。



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