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王道を走れば:幻想にて
第四章、序の3:旅立ちの日に
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 首飾りのチェーンを握りながら、たおやかな藍の髪を撫でるように手の甲を滑らせた。コーデリアの頸元に紫の輝きが放たれ、その端麗な美と合わさってより一層の美しさを、若く清純な芳しさと共に伝えた。言葉にするのも惜しいほどの可憐さであり、慧卓にしてみれば世界を二分しても良いと思えるほどのものであった。

「・・・やっぱり。凄く綺麗だ」
「っっ!!」

 潤んだ恋慕の瞳を開きながら、コーデリアはひしと慧卓に抱きついた。背中にぎゅっと手を回された事に感動し、慧卓は彼女の身体を抱き締める。淡い想いの実現を出来て胸中が震え、抱き締める以外に彼が出来るといえば、彼女の長い髪を感じる事だけである。至高の手触りであり、掌が浄化されるかのような柔らかさであった。
 対するコーデリアも、胸中は震えている。胸に燻っていた本心を自覚し、慧卓に対する想いが恋慕のものだと確信した震えである。そして、これほどまでに長く己を諭し応援してくれる言葉を聴き、孤独を着飾った不安の殻が砕け散った震えであった。

「ケイタクっ・・・ずっと離さないで。私を一人にしないで」
「・・・ああ、ずっと一緒だ」

 耳元に紡がれる言葉が情に染み入り、慧卓は密着する柔らかな温かみを静かに感じる。接吻をしたいという気持ちも僅かにあったが、この神聖な雰囲気を崩すような無粋な真似はしたくなかった。今はただ互いに、それぞれの思いに浸りたかったのだ。
 銀色の星明りが頼りない輝きを地面に齎す。人目が閉ざされた空間で二人の若人はひしと抱き合い、静穏に時は過ぎていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌朝、慧卓の朝は慌しく始まりを告げた。出立式は宮廷内の執務で、朝一番に執り行われるのだ。遠出に備えて朝食は多めに食べて、侍女の手伝いもありながら騎士の鎧を身に着ける。てきぱきと手馴れた所作を見せる彼女らに関心しながら、慧卓は己に纏い始めた白銀の鎧を鏡に映した。
 筋力と体力が不足しているためにフルプレートアーマー着用という地獄は味わう破目にはならなかった。着用した鎧は胴体のみを固めたハーフアーマーであり、重さは毛皮のコートより多少重い程度、宛ら鋼鉄の袖なしシャツといわんばかりの代物である。そしてグローブを身に着け、拍車のついたグリーヴを履き、腰に鞘に収まった剣を差し、革紐で吊るした盾を頸にかける。騎士の正装の完成である。

(まっ、全部上手く使えるなんて到底無理なんですけど。絶対俺が使えそうなの、剣だけだろ・・・盾なんて、持った事無いですよ?)

 部屋を後にして北の集兵場へと向かいながら愚痴を零す。その場所へ着くと、快活に晴れ渡った青空と夏の陽射、そして人々の騒々しさが出迎えてくれた。出立式前に関わらず、多くの者達が始まりを前に自由気ままに話しているようだ。
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