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王道を走れば:幻想にて
第四章、序の3:旅立ちの日に
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良さだけが残るのよ。何時も何時も、そればっかり」
「そうとは言い切れないかもよ」
「・・・そうかな?」

 きっぱり、とまではいかないまでも、はっきりとした口調で言われた事に、コーデリアは疑わしげに問い返した。慧卓は自信のある様子で淡い笑みを浮かべて、小さく頷く。

「俺には分かる。・・・というか、俺以外の奴も理解しているさ。アリッサやトニアさんだって、熊美さんもだ。後はリタやクィニさん、それにコーデリア愛好会の連中とか」
「あ、愛好会?」
「そ、そういう連中も居るの!・・・兎に角、コーデリアが気付いていないだけで、皆、コーデリアの長所を知っているよ。誰にも勝る、王女を王女たらしめる、大事な長所を」
「何かな、それは?」
「・・・慈愛だ」

 笑みを消して、慧卓はコーデリアの方へと顔を向けて言う。彼の瞳に宿る小さくも真剣な炎に、思わず口を噤んで目を静かに開いてしまった。確りとして澱み無く、心の趣くままに慧卓は語っていく。胸に宿り始めた騎士の誇りが言葉から拙さを消していた。
 
「貴女が皆から慕われている理由が分かるか?貴女の優しさは、どんな障害も越えて、直接彼らの下へと届いているからだよ。身分の貴賎も鎖のような規則を越えて、貴女は真摯に彼らを思う。だから自然と彼らから慕われるんだ。宮廷の宦官達には、絶対に出来ない。ニムル国王にだって出来やしない。
 万人に愛を向けれるのは、コーデリアだけが出来る特別な力なんだ。臣民は貴女の容姿の良さを慕ったのではない、貴女の心に慈愛を感じたから慕っていくんだ。俺も含めて」

 正々堂々と語られた友人、否、騎士の静かにして熱き思いがコーデリアの不安の殻に皹を入れた。それは氷を熱する炎のようであり、彼女の胸中に巣食っていた蟠りの表面には、溶解の兆しが流れているであろう。俄かに驚いた表情をした己が忠誠を向ける相手に対して、慧卓は律した口調で語り掛けた。

「コーデリア王女」
「・・・はい」
「二度と、己の命を否定するような事を言わないで戴きたい。それは人々の思いを踏み躙る屈辱を伴った行為だ。彼らのためにも、貴女にはずっと真摯な愛の心を持って欲しい。それが常に、他の者には出来ない貴女だけの役割を与えてくれる」

 そしてころりと口元に笑みを浮かべて、騎士特有の堅苦しさを取っ払う。王国に仕える士としての思いは語り終えた。後は、想い人に向かって語るだけだ。

「ついでに言えばさ、もっと俺等を信用してくれてもいいんじゃないかな?コーデリアは、俺等を北嶺に行かせるのにずっと反対してくれていたんだろ?俺等を思ってくれるのは凄く嬉しいんだけど、そういう思いって、裏を返せば俺等が北嶺で何も出来ないって考えてなきゃ生まれてこないと思うんだよな」
「う・・・まぁ、少しは思っているよ」
「本当に少し
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