第四章、序の3:旅立ちの日に
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背を抱きながら、慧卓は瞳をすっと閉じて、その可憐な口元を奪い取った。観衆は口をあんぐりと開いて思考を停止させるを余儀なくさせる。彼らが想い慕う王女の唇が、ただの若き青年に簒奪されたのだから。
コーデリアは突然視界を埋め尽くした慧卓の顔と、口元に感じる熱の篭った愛情表現に驚き、そして時が経つにつれて、感涙を浮かべた瞳を閉じる。そしてその接吻を受け入れるために、慧卓の腕に手を置き、そしてその背中に己の手を軽く回した。悲鳴にも近きどよめきが衆目から湧き上がる。
「や、やった!やりやがったぞあいつ!!!」
「く、くそぉ・・・くそぉ・・・なんて羨ましいっ!!」
広場に残っていた王女愛好会の二人は、血涙も流さんばかりに悔しがる。王女の成長を祝う気持ちよりも、友人である慧卓を呪う気持ちが勝ったのだ。
渦中の二人といえば、唇の抱擁を幾度も重ねるに至っていた。花が重なり合うように軽やかで、優しさに満ちて接吻を幾度も重ねる。彼女の背に回した手がなだらかな蒼の髪を撫で、たおやかな身体を感じている。万感の思いを抱きつつ慧卓は一度唇を離した。間近で見詰める想い人はうっとりとして、潤いの光る頬を恋慕の赤に染めている。幾度見ても見飽きぬ傾城の美に、慧卓は改めて見惚れてしまった。
「・・・な、大事な忘れ物だっただろ?」
「・・・うん、凄く大切・・・。ね・・・」
もっとして、と紡ごうとする彼女の口を再び塞ぐ。ただ重ね合うのも我慢できず、水音にも似た艶やかな調子を口元から奏でる。気持ちがどんどんと膨らんで、抱擁に篭る力も強くなってしまいそうであった。だが時間を独り占めするわけにもいかない。任務と仲間が、彼を待っているのだから。
慧卓は身も引き裂かんばかりの名残惜しさで口を離しつつ、囁いた。
「帰ったら、もっと沢山しような?それまで、我慢してくれ」
「うん、もっとして欲しい・・・もっと抱いてほしいから、待ってるね・・・あっ、そうだ・・・」
コーデリアは彼の背に回していた手を解き、掌に握られていた指輪を見せる。そして慧卓の左手を持ち上げて、その薬指に指輪を嵌めた。
「これ、首飾りの代わり。大切にして」
「・・・ああ!!大切にするよ、ずっと!!」
胸を大きく震わせながら、慧卓は再度コーデリアに熱いキスを落とす。上唇を吸うように二・三度唇を重ね、そして舌先でつんと突いてやる。
「きゃっ」
可憐な声と共にコーデリアが驚くのを見て、慧卓は笑みを浮かべながら馬に跨った。そして大望を背負う騎士に相応しき颯爽たる面持ちで、己が仕える王女に向かって言う。
「では殿下、行って参ります!!」
「どうか御無事で、騎士ミジョー!!」
想いが詰め込まれた言葉に慧卓は大きく頷き、ベルの腹を強く蹴る。鋭い嘶きと共に愛馬は
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