第四章、序の3:旅立ちの日に
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跨って鐙(あぶみ)に足を掛ける。
「・・・宣戦布告してきます!」
「行ってこい!」
溌剌とした言葉に返事を受けて、一つ鋭い息を吐くと慧卓は馬の腹を強く蹴った。前足を高々と上げて馬は力強く嘶き、その足を下ろすと共に疾く、疾く駆けていった。馬車の列を観衆の視線を釘付けにしながら慧卓は街中を只管に走り、己の想い人の下へ向かっていく。
「・・・青臭い餓鬼だな、あいつは」
「そうだな。空のような奴だ」
少しの羨ましさを醸しつつも、晴れやかに熊美とオルヴァは遠くなっていく背中を見詰めていた。そして塞いでいた道を開けるため、騎士達を横へと移動させていった。
内縁部の北の集兵場では、既に人の波が小さなものとなっていた。式典も終わり国王達重臣は宮廷へと引っ込み、騎士や楽師、或いは貴族の令嬢らも其処を離れている。残るのは兵幾人と、そして開け放たれた門を前に立ち竦むコーデリアだけであった。胸元には、樫の木により象られてターコイズを嵌めた一つの指輪が、所在なさそうに握られていた。
その背後から、侍従長が声を掛けた。
「コーデリア様・・・そろそろ宮中に戻らねばなりませんよ」
「・・・クィニ。もう少し、此処に居させて下さい。門を、開けたままで・・・」
「・・・御心中お察しします。ですが、そのような物憂げな御顔を外界に向かって顕とさせたままとあっては、民草もまた不安となってしまいます。どうか此処は、お引取り下さい」
クィニの言葉に反応せず、コーデリアは寂しげな面持ちで外を見遣るばかりである。これ以上は付き合っても仕様が無いと、クィニは衛兵に目を向けた。
「・・・衛兵。門を閉じなさーー」
「待って」
不意に掛けられた声にクィニは口を噤む。王女の瞳が遠くを見るように窄まれている。クィニもそれに釣られて門を見遣ると、一頭の騎馬が此方に近付いてくるのが見えた。栗毛の馬体に乗った姿は、コーデリアの心中を占有していた慧卓の姿であった。
「ケイタクさんっ!!」
「あっ、殿下!!」
衆目も憚らずコーデリアは駆け出していく。衛兵達もその場に残っていた者達も驚いて見遣ってきた。コーデリアは門前に立ち止まり、慧卓の姿に可憐な笑みを覚えると共に不安を覚えた。何故此処へ戻ってきたのであろうか。
馬から降りて真剣な瞳を浮かべた慧卓にどきりとしつつ、コーデリアは敬語を捨てて声を掛けた。
「どうしたの、そんなに慌てて」
「ああ、ちょっと大事な忘れ物をしてな。急いで来た」
「ほ、本当に?大変・・・急いで兵に知らせて取りに行かせなくちゃ」
「いや、いいんだ。結構直ぐ近くにあるからさ」
「え?どういうーーー」
疑問符を浮かべた彼女に向かって、慧卓がぐっと近寄っていく。驚くように目を見開いた彼女の
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