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王道を走れば:幻想にて
第四章、序の3:旅立ちの日に
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ん」
「いえ。お怪我が無いようで何よりです」

 二人は車内に乗り込んで、隣り合わせに座った。向かい側に座るアリッサとキーラの瞳がすっと窄まったような感じがして、どうしようも出来ぬ気持ちで横に目を向けた。
 窓から外を見ようとした時、鞭が翻る音と共にぶるりと二頭の馬が嘶き、車が牽引されて景色が動いていく。色彩と表情が豊かな人の波は直ぐに途切れ、薄暗い石壁が、そして光と共に王都の街並みが広がっていく。式典の騒ぎを知ってか、外には多くの見物人が居た。

「よくある事だ。ああいうのは」
「良い見世物って事ですか。ま、人の事は言えないよな」

 慧卓はそう言って座席に座り直し、そして寂しげに息を漏らそうとする。結局コーデリアのみならず、熊美にすら会えなかった。
 ふとそう思っていると、景色の動きが緩やかなものとなっていく。そして気付いた時には完全に足を止めてしまい、武器屋の見世棚が目に移った。

「・・・はぁ・・・矢張り、か」
「矢張りとは?」
「見れば分かる」

 慧卓は窓を開けて顔を出し、驚きで声を出せない状態に陥った。目の前の道を二人の騎士に従った騎士団が塞いでいたのだ。金の百合花を飾った旗は、それが黒衛騎士団の存在を、そして熊美の存在を伝えている。 
 
「・・・如何したらいいんでしょう?」
「・・・すまぬがケイタク殿、応対を頼む」
「はい、喜んで」

 扉を開いてさっと地面に降りると、己の先を走っていた男爵に擦違い様に軽く手を挙げつつ、慧卓は迷い無く騎士団の方へと進んでいく。それぞれ二頭の大きな馬に跨った二人の騎士を見定め、その一方が重厚な鎧を纏った熊美であると確認した。背に靡くマントが、想像を越える洗練さを醸している。

「熊美さん、広場に居ないと思ったら此処に居たんですか・・・しかも騎士団を引き連れて」
「ええ、貴方に用があって此処に来たわ。それさえ済んでしまえば直ぐに道を開けるけど」
「旧友を巻き込んでの大騒動だ。上手くやらないと承知せんぞ?」
「わかってる、わかっている」

 隣に並ぶ白銀の鎧を纏ったカイゼル髭の騎士はそうごちて、馬上から気軽に慧卓に話しかけた。

「やぁ、随分と久方ぶりだな、ケイタク殿」
「貴方は・・・えっと、オルヴァ=マッキンガー子爵様?」
「たった一回しか会っておらんのに、よく覚えていたな。口の中で何回、その名前を反芻した?」
「ごめんなさい、軽く二十は致しました・・・」
「はは、若いとはなんと素直な事か・・・羨ましいな、クマミよ?」
「若さを僻むよりかは、私は老いに喜びを見出すぞ」

 熊美はそう言って、父親のような、或いは母親のような慈しみの視線を慧卓に向ける。

「慧卓君・・・いよいよ出立の時ね。独り立ちとは違うかも知れないけど、此処まで良く
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