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王道を走れば:幻想にて
第四章、序の3:旅立ちの日に
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 ひんやりと湿気こんだ夜であった。夏空を突如と曇らせた夕立のお陰か王都を繋ぐ石畳が濡れてしまっており、暗い紫紺の世界の中で松明の明かりが、湿った木造の建物を陰に篭った色合いに染めていた。雨後の街は人通りが常以上に少なく、足音がこつこつと響いてしまう程だ。
 外縁部も内縁部も、外界から騒がしさがほとんど失せていた。それは場所を移り、屋内へと移されているようだ。例えば、若き女子達の会話もそうであった。

「そっか、キーラも一緒に行くんだ・・・」
「はい。出立の前日に、しかもこんな時間にお知らせする形となって、御免なさい」
「気にしてないよ。キーラ、真面目だから、事前の準備で手一杯だったんでしょう?なら、私がとやかく言う筋合いは無いよ」

 その場所は、例えば宮中の一室。翌日に控えた北嶺調停団の出立式ために、多くの者が既に寝静まり始めている。今起きているのは哨戒中の警備兵か、翌日のために職務を遂行する文官か、或いは緊張して眠れぬ者か。自室にて寝巻きに着替えていたキーラは如何にも最後に該当するようであった。そのためコーデリアの突然の来訪に驚きつつも緊張の和らぎを覚え、ついついと話し込んでしまうのである。
 友人に可憐な寝巻きに目を細めつつも、コーデリアはその友が向かう先の領地に、己の深い記憶を探り始めた。

「・・・それにしても、北嶺か・・・私は一回しか行った事が無いなぁ・・・」
「ああ、確かそうでしたね・・・確か、学院の方へ?」
「えぇ、幼い頃に魔術学院にね。あくまで学院の慰問という形だったから政治や情勢なんて考えていなかったけど・・・どんな所だったっけ・・・今は良い情勢とは言えないのは理解出来ているんだけど」
「・・・残念ですけど、その通りです。エルフ内での派閥争いの余波で、自治領と王国領の境界線まで諍いの波が及んでいるようです。近々、国内にもその影響が達するのは必定かと」
「・・・昔みたいな流れだね」

 王女が指す昔とは、三十年前の内乱の始まりを意味する。当時の王国では現在のエルフ民族内のような対立が勃発しており、そして件の大乱が始まったのである。キーラもそれを重々承知している。だからこその緊張であるのだ。
 コーデリアは心配し、そして思いを深める。この情勢を鑑みるに、将来下されるであろう調停団の決定が、王国の未来に有無を言わさない風を吹き込む可能性を秘めてしまったのだ。ならばそれを下す中枢の者達の心労といえば、想像するに難くない。

「貴方に、アリッサ、そしてケイタクさん・・・本当の意味での重責を負う事になっちゃったか」
「・・・私が出来る限り、あの方々をお助けします。お父様の方にも、騎士を同伴させるよう言っておきました。きっと聞いてくれます。これで彼らの負担の軽減となればいいのですが・・・」
「そうね、気遣っ
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