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【短編集】現実だってファンタジー
つぶやき総集編
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を放つ。動物はその濃密な危険の香りから逃れるために一目散に逃げ出し、鳥や虫も一斉にその場を退く。草木さえも俺の気迫にはざわめいた。
 その前で唯一人――ありったけの気迫をぶつけているのに、この男の周囲はまるで凪のように穏やかな空気が流れている。絶対者のそれだ。極めた人間が持つ特有の『世界』の元で、この男は生きている。

 嬉しくなる。これだけの殺気をぶつけて尚微塵も揺らがなかった剣士など、この男が初めてかもしれない。この男は間違いなく、俺を満足させるだけの鍛錬と才覚、そして経験を積んでいる筈だ。

「我が名は『南の英雄』ドウセツ!!貴様が剣を抜かぬならば、俺が無理にでも抜かせてやる!!さあ、死合いだッ!!」

 全身の血液が沸騰し、頭が全て戦いのみに塗り替わっていく。
 この血沸き肉躍る瞬間こそ、俺が求めてやまない最高の瞬間。
 命を賭けた真剣勝負の先にこそ、最強への道がある。


「――やめておけばいいものを」


 気が付いたその時には、俺の腹は深く切り裂かれていた。

「な………」

 噴き出す血液。遠のく意識。俺が最後にその目に見たのは――ラメトクの手に握られた血濡れの剣だった。

 いつ、どうやって抜いて、どう斬ったのか。

 全く、見えなかった。



 = =



 俺はラメトク。北のド田舎に住む男だ。

 世間は俺のことを最強の剣士とか英雄とか言っているが、正直勘弁してほしい。
 俺は確かに一つだけ、人には絶対に負けない業を持っている。しかしそれは日常生活では役に立たないし、戦いでも必ず役に立つわけじゃないし、そもそもこれを身に付けないと自分が死ぬから嫌々ながら覚えた業なのだ。

 今日も勘違いして俺の元にやってきた頭が可哀想なおっさんが一人。

 おっさんの名前はドウセツというらしい。自称南の英雄らしい。土地が遠すぎて北にはそんな話が伝わってこないから知らんわと思うのだが、あっちは何故かこっちの事を知っているのだから迷惑なこと極まりない。
 前にも西の英雄が俺の所に喧嘩しにやってきた。が、俺に会う前に山で遭難したので仕方なしに助けてやったら回復と同時に斬りかかってきた。夜盗か暗殺者にしか見えない。なんで古今東西の英雄と呼ばれる人間は人の話を聞かないのだろうか。腹が立ったので山での追いかけっこに持ち込んでもう一度遭難させてやった。……見捨てるのもかわいそうだったから後で助けて西にお返ししたけど。

「さあ、死合いだッ!!」

 おっさんから放たれる圧が凄い。具体的に言うと大分距離はあるはずなのに至近距離に顔面があるような圧だ。むさい。むさすぎて辛い。おうちかえりたい。

 しかしね、おっさんよ。アンタそれはかなりマズイぞ。最悪死ぬ。マヂで。
 だって
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