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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十九話 流し雛の奏上
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が認める筈がない。」
 頭が冷えたのか、定康准将が冷静に疑問を挟む。

「それについてですが。」
 草浪は淡々と報告を行うべく口を開いた。
「何だ、道鉦?」
 英康が発言を促す。
「私が調べた所、あの軍状報告は後半に白紙がありました。
恐らく新城少佐は白紙を読んだのです」
 反射するように定康准将が命ずる。
「ならば奏書を手に入れろ。白紙を読み上げる等、認められるか!」
「それも不可能です。実仁殿下が御自ら奏書を“後学の為に預かりたい。”と受け取られたそうです」

「実仁殿下だと! そうか!そういう事、か。」
英康大将が呻く。

「はい、駒城保胤中将は実仁殿下と幼年学校の同期です。
駒城家が殿下と協力関係にあるのでしょう。それならば、新城少佐を使って総反攻を潰した後は、彼を殿下の下に逃す可能性があります。」
 内心、草浪も舌を巻いていた。
――上手い手だ、流石の守原も近衛衆兵への影響力は弱い。もっとも持つ必要が無かったからでもあるが。
「陸軍が危険ならば近衛衆兵、こそこそと衆民らしく弱兵の巣穴に隠れるのか」
 定康准将が鼻で笑うが、何か考えついたのか、一瞬、悟性の光を瞳に閃かせ、草浪へ顔を向けた。
「道鉦。駒城の子飼いの大隊長はまだ帝国の手にあるのだな?」
 予想外に力強いその視線を受けた草浪は狼狽を抑えながら常のとおりに淡々とした口調を意識して答えた。
「――はい、内地に戻るまでは後半月から一月程あるようです」
 それを聞いた守原定康は会心の笑みを浮かべる。
「ならば我々のする事は決まった」
 ――我々、か。
守原英康の足下に屈み込み、割れた茶碗を拾う個人副官と目があった草浪は――自分もその存在を無視していた事に気がつき、なんとも厭な気分になった。

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