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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十九話 流し雛の奏上
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するのか知っているのだろう。
 ――義兄上か、未だ一度も顔を合わせていない実仁親王か。何もかも打ち合わせ通りか。
あぁ、そうか、つまりこれは儀式なのだ。滅びかけのこの国で名目上の君主が生き延びる為の。ただ周囲への恨みを避ける為だけの儀式。
 ――さしずめ俺は人形といったところか。 皇家に掛かる厄を擦りつけて流される雛人形か畜生!どいつもこいつも自分以外の何もかもを叩き売りしている、ならば其奴らの値段は幾らだ?  お膳立てされたこの儀式は?  俺の値段は? その値段は誰が決める?
 自身の値段を決められない事が腹立たしい。

「少佐」
式部官が不審そうに囁くと考えこんでいた新城は儀式へと意識を戻し、半直角の礼をし、五寸数えて頭を上げる。
 皇主は軽く頷くと玉座に腰を沈めた。全ては滞りなく伝統と形式に沿ったものであった。
式部官は満足そうに頷くとまさに式部官に必要な荘重な声を張り上げた。
「新城直衛殿、軍状報告御奏上なされます!」
懐から奉書を取り出し、それを見て新城は唇を歪めた、
――手は震えていない。
それに僅かな安堵を感じ、虚栄と虚飾に彩られた軍状報告を淡々と読み上げる。
 余りにも酷いそれに自嘲すら感じながらもそれを止めることはない。何しろ自分が請け負った厄介事なのだから。



三月十三日 午後第二刻 駒城家下屋敷
駒城家 育預 新城直衛


 北領から生還した英雄の一人である新城直衛は――大いに困っていた。
初姫様――新城の義姉と義兄の娘――が膝の上で眠っているのだ。
もう半日近く遊び相手をしていた千早はぐったりとしている。
 ――剣牙虎を消耗させるとは、大した女傑だ。
「どうぞ」
扉をたたく音に答えると、駒城の家令が畏まった態度で新城に言伝を伝えようとするが
「失礼します、若殿が――」
新城の膝の上を見て言い淀む。駒城家次期当主の一粒種であるのだから無理もない。
「用件は?」
「はい、若殿が、お越し戴けると有難いとの仰せでございますが−−」
 ――どうしたものか、起こすのもなんだろう。
「若殿にこの有様だから此方にお運び願いた「ちあや。」」
 初姫――駒城麗子が目を覚ました。
――どんな夢をみていたのやら、それにしても第一声が千早とは、余程気に入ったらしい。いやはや、大した姫様だ。

 家令と面を見合わせると互いに笑いが込み上げてくる。ひとしきり笑いが部屋に満ちた。
笑い声がおさまると新城は笑みを浮かべたまま伝言を変える。
「姫様と千早が一緒でも宜しいのなら直ぐにでも伺うと若殿様に伝えてくれ」

 家令が扉を開けると、龍州産の子犬が駆け寄ってきた、毛並みが良いおそらくは、義兄上の誕生祝いとして馬堂家から贈られたのだろうと新城はあたりをつける。
 龍州犬は猟犬と
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