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魔王に直々に滅ぼされた彼女はゾンビ化して世界を救うそうです
第6話『例え恐れられようとも』
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快な感覚だけが全身を襲った。

 少年が胸の中で涙を流し、死徒の少女を見上げている。
 傷は無い。

 ホッと胸を撫で下ろして少年を安全な所に置くと同時に、息つく暇もなく魔族が上空に飛び上がり、スィーラ目掛けてその怪力を叩き付けようとする。


 ──回避は不可能。ならば受ける。


 不恰好ながらも頭を守り、両腕に叩きつけられた圧倒的な暴力に耐える。足が知らぬ間に踏んでいた木の板が割れ、真っ二つに弾け飛ぶ。
 なんという馬鹿力か、スィーラも大概ではあるが、この魔族はそれ以上の腕力を持っている。正直、そう長く耐えられる気はしない。

「スィーラっ!」

 背後からメイリアの声が聞こえたと同時に、炎の塊が魔族を吹き飛ばす。が、特に効いた様子もなく、悠然と立ち上がった。
 スィーラがメイリアに視線を送り、魔法の威力を高められないのかと問う。

「……ごめん。出来るには出来るけど、周りを巻き込んじゃう。まだ調整が出来ないの……今使える魔法だと、今のが限界……!」

 −−不味い。
 恐らく、スィーラの怪力もあの魔族には通じない。魔法を使ってくる気配が無いところを見ると、恐らくは魔力を全身の強化に回しているのか。
 どうにせよ、今の二人に対抗手段は無い。防戦一方になるだけだ。そして、周りの住民達は完全に恐慌状態。巻き込まれる可能性が高過ぎる。

 どうする−−!?

 ──決まっている。

「……ぅ、……ぁ……っ!」

 スィーラが、飛び込む。握り慣れない拳を握り、全長190はあるかというその魔族に殴り掛かる。

「ゥ"ルァァァァアァ"ァァァァッ!!」

 敵もまた、拳を握る。
 巨大な薄緑の拳はスィーラの小さな右手を素通りし、先に少女の顔面を殴り付ける。痛みや被害こそ無いものの、激しい衝撃に脳が揺れる。

 −−けれど、倒れない。


「……なに……してんだよ……あのゾンビ……」

 住人の中から、絶望混じりのそんな声が聞こえた。

 もう一度。両手を握り込み、声と言うほどの声も出ない掠れ切った喉を奮わせる。魔族もまた一つ雄叫びを上げ、その巨腕を握り込む。

 交錯。

 衝撃。

 少女の体がまたも飛び、三半規管を揺らされた目は役立っていない。追撃とばかりに、重々しい音を立てて拳が二度、三度、四度と叩き込まれる。が、倒れない。

 七撃。

 倒れない。

 八撃。

 倒れない。

 九撃。

 倒れない。


「……なんで、あのゾンビ……俺達を庇ってるみてぇに……」

「……なんなんなのよ……っ、訳分かんないのよ……っ」

 更に声が漏れる。襲われた恐怖と、魔族が魔族と殺しあうという光景に対する困惑を孕んだ声。しかし、誰
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