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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
第20話『吹き渡る風』
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俺の掛け声と共に訪れたのは・・・またしても静寂だった。


“失敗”。そう気づいた時には、大熊の攻撃が寸前に迫っていた。見切る暇はない。
コンマ数秒後にでもやられるであろう俺の体。その様子に口に手を当てながら驚愕している戸部さんの姿が、視界の端に映った。

もはや選択肢は2つ。『直感で避ける』か『無抵抗で受けるか』。
もちろん俺は前者を選択する。ただ直感と言っても、この腕の大きさなら避ける箇所も限られる。
せめて軌道さえわかれば、一瞬の時間で判断し、避けれる自信があるのだが。
まぁ、無理な話だけどね…。


「右だ!」


俺は必死の思いで右へと避けようとした。
だが大熊の爪は、そんな俺の左肩を捉えた。


「あぁぁぁぁ!!!」


生涯で味わったことの無い激痛が脳に伝わる。
切り傷なんてレベルじゃない。なんか常に脳に電気が走る感じだ。痛い。


「ぐっ…」


ふと、気の緩んだ俺は倒れ込んでしまう。
川によって湿った小石が、俺の体を冷やした。

ヤバい、正直起き上がれない…。
呼吸する度に痛い。肩が焼ける。そんな痛みが俺を蝕んでいった。


「三浦君!」


熊なんかそっちのけで放たれた声が聞こえた。
声の方向を見ることも正直ままならないが、俺はその方向を見た。

そこには、心配そうにこちらを見る戸部さんの姿があった。
良かった。まだ無事だ。
この熊は未だに俺を狙っている。何とか彼女だけでも逃がさなければ。



そういや、何でこんな事態になってしまったのだろうか?
始まりはただのスケッチだったはずだ。そこから説明不能な急展開が起こり、今に至ったんだよな?

はは…そう考えると、呆れて物も言えねぇや。

面白いな、人生って。
中学生になってから、生活が見違えるように変わってしまった。
一体何でだろうな。
俺は普通な生活を送っていたのに・・・


──んなこと今はどうでも良いか。
俺は今やるべきことをやる。

戸部さんはあの時「助けて貰えないかな」と言った。
その言葉通りの役目を、俺は果たさなきゃならない。
今ちょっと諦めてたけど、肩を怪我したくらいでへばっちゃかっこ悪いよな。


この熊ぶっ倒して、彼女を守ってやるんだ!


「っらぁ!!」


俺は一気に立ち上がった。今までの迷いを吹っ切るが如く。
もう迷わない。俺は魔術を使うんだ。やっと見つけた俺の『非日常』なんだから!


「へへっ」


怪我の無い右腕で汗を拭い、俺は表情を変えて熊を見据えた。
そして右手の拳を強く握り締めると、俺は一直線に熊を目指した。

その拳の周囲は、波の様に揺らいでいるように見えた。



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